クローン病(読み)くろーんびょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クローン病」の意味・わかりやすい解説

クローン病
くろーんびょう

1932年にニューヨークの医師クローンBurrill Bernard Crohn(1884―1983)らによって初めて報告された亜急性または慢性の限局性腸炎をいう。その後の多数の症例検討によってこの病気は、小腸大腸がつながっている回盲部に多くみられるが、口腔(こうくう)から肛門(こうもん)に至る消化管のどの部分にもおこるものであり、しばしば腸管を広範に侵し、きわめて難治であることがわかった。今日なお原因不明である。男性にやや多く、20歳代の若い人に好発するが、小児や高齢者の発病もないわけではない。日本では1973年(昭和48)ころから目だって症例報告が増え、1976年から厚生省(現厚生労働省)の特定疾患(難病)に指定され、2006年(平成18)末までに約2万5700人が登録されている。

 微熱下痢腹痛で始まることが多いが、無症状となる緩解とふたたび悪化する再燃とを慢性的に繰り返す。小腸に広範な病変がある場合には吸収不良や長期の下痢によって栄養不良となり、体重が減少し、小児では身長の伸びが止まる。診断には腸のX線検査、腸のファイバースコープ検査とそれによる生検組織の所見などで総合的に行われるが、ときに腸結核との鑑別がむずかしいことがある。腸が破れる穿孔(せんこう)や腸が詰まる腸閉塞(へいそく)をおこして手術する例もあるが、再発が多く、内科的治療が原則とされている。内科的治療は栄養療法と薬物療法が組み合わされて行われ、栄養療法には経腸栄養と完全中心静脈栄養がある。薬物療法はおもに5‐アミノサリチル酸製剤や副腎皮質ステロイド、6‐メルカプトプリン、アザチオプリンなどの免疫抑制剤が用いられ、症状が重い場合、抗TNF‐α(アルファ)抗体が使用されることもある。

[吉田 豊]

『福田能啓編『クローン病ってこんな病気』(2005・診断と治療社)』『ジェームズ・スカラ著、福島恒男監訳『潰瘍性大腸炎・クローン病の食事療法――自分の体に合った食生活で難病をコントロール』(2007・メディカ出版)』『ジョアン・ゴメス著、前島真理訳『クローン病――増えつづける現代の難病』(2007・藤原書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クローン病」の意味・わかりやすい解説

クローン病
クローンびょう
Crohn disease

限局性回腸炎ともいう。潰瘍性大腸炎とともに原因不明の腸炎の代表的なもの。厚生労働省の難病対策特定疾患に指定されている。おもに小腸と大腸に潰瘍や肉芽腫を形成する腸炎で,アメリカの医師 B.クローン (1884~?) が 1932年に初めて報告したときは回腸に限局するとされ,回腸末端炎と名づけられたが,その後,回腸にかぎらず口腔から肛門までの消化器のどの部位にも起る非特異的慢性炎症性腸疾患であることがわかった。症状は慢性下痢,腹痛などで始まり,肛門の周囲に潰瘍や瘻孔を合併し,腹部にしこりを触れ,発熱,貧血,関節炎,肝障害などの全身的症状も起る。急性虫垂炎と間違えられて手術されることがよくあるので,X線やファイバスコープの検査で確認し,また病理学的に肉芽腫を証明することも必要である。欧米には比較的多いが日本ではまれな疾患。再発を繰返し,長期の治療が必要になるが,この病気で死亡することはめったにない。

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