腹診(読み)ふくしん

精選版 日本国語大辞典 「腹診」の意味・読み・例文・類語

ふく‐しん【腹診】

  1. 〘 名詞 〙 腹部を診察すること。診腹。腹候。
    1. [初出の実例]「中華には腹診(フクシン)の法なし」(出典談義本・医者談義(1759)三)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「腹診」の意味・わかりやすい解説

腹診
ふくしん

漢方医学で脈診とともに重要とされる診察法。中国の古典にも腹診に関する記載がみられるが、中国ではそれほど発達せず、日本において独特の発達を遂げたものである。近代医学でいう腹診は、腹部内臓臓器の形状や腫瘍(しゅよう)などを触診し、また筋性防衛、圧痛点などの確認が主となるが、漢方医学の腹診は、病人の全体的な虚実を判定し、証(しょう)(症候群)を把握するために行われる。腹診をするときは、病人を仰臥(ぎょうが)させ、両足を伸ばし、腹に力を入れないようにさせるが、胃内停水(心下部の振水音)をみるときは、膝(ひざ)を曲げさせて腹筋の緊張を緩めたほうがよい。医者は患者の左側に位置するのを原則とし、診察は右手の手掌または指先で行う。

 腹診における証(腹証)のおもなものは、腹壁の硬軟(緊張度や弾力性。とくに腹直筋の緊張状態)、硬結、圧痛、内部の状態(腸管の蠕動(ぜんどう)不安など)、腹部大動脈の拍動亢進(こうしん)の有無、あるいはその程度などであり、これを基に、さらに虚実が判定される。ことに慢性病の治療では、腹診は脈診よりも重要な意義をもっている。腹診にあたっては、とくに心下痞硬(しんかひこう)、胸脇苦満(きょうきょうくまん)、腹皮拘急(こうきゅう)、小腹不仁(しょうふくふじん)、小腹急結、胃内停水などを注意して診察しなければならない。

 心下痞硬は、心下部がつかえる感じのうち、抵抗を認めるものをいう。処方としては、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)、甘草(かんぞう)瀉心湯などが用いられる。なお、心下痞は心下部がつかえるという自覚症状で、他覚的には抵抗や圧痛が認められない。振水音があることが多く、処方としては、四君子(しくんし)湯、人参(にんじん)湯などが用いられる。

 胸脇苦満は、季肋(きろく)部(みぞおちから第10肋骨(ろっこつ)に沿った部分)に充満した感じがあって苦しく、抵抗と圧痛を認めるもので、処方としては、柴胡(さいこ)剤(大柴胡湯小柴胡湯など)が用いられる。

 腹皮拘急は、腹直筋が突っ張り、2本の棒のように硬くなっているもので、処方としては、小建中湯(しょうけんちゅうとう)、黄耆(おうぎ)建中湯、芍薬(しゃくやく)甘草湯、桂枝加(けいしか)芍薬湯などが用いられる。上腹部で腹直筋が緊張しているものは、四逆散(しぎゃくさん)や抑肝(よくかん)散などを用いる。

 小腹不仁は、臍(へそ)の下に弾力がなく、脱力してくぼんでいるもので、処方としては、八味丸(はちみがん)が用いられる。

 小腹急結は、瘀血(おけつ)の腹証で、左側の腸骨窩(か)に圧を加えると急迫性の疼痛(とうつう)を訴える。処方としては、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)を用いる。

 胃内停水は、胃下垂などのある患者にみられるもので、心下部を指でたたくと水の音が聞こえる。処方としては、人参湯、四君子湯などを用いる。

[矢数圭堂]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「腹診」の意味・わかりやすい解説

腹診
ふくしん

漢方の診断法の一種。患者の腹部を触診,打診などすることによって,その体質,疾病の有無を知る方法。吉益東洞が重視して以来,特に日本で発達した。西洋医学の腹部触診では肝臓,脾臓などの臓器の異常,腫瘍の有無,腹水や鼓腸の有無などが重視されるが,漢方の腹診では,腹壁の緊張度,諸種腹筋の緊張度,抵抗や圧痛の有無,心下部振水音の有無,腹大動脈の拍動の触知状態などが特に問題にされ,腹診によって腹部の情報のみではなく,患者の全身像も把握するという性格が強い。

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世界大百科事典(旧版)内の腹診の言及

【四診】より

…問診は患者の愁訴を聞くことであるが,家族歴や既往歴,発病からの経過だけでなく,悪寒とか熱感,口のかわき,めまい,手足の冷えなどを重視するのが特徴である。切診とは医師が患者のからだに触れて診察することであるが,特に重要なものとして,脈診と腹診がある。脈診は最も重要な診断法の一つで種々の方法があるが,通常行われているのは手首の部分の橈骨(とうこつ)動脈の搏動によるものである。…

※「腹診」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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