日本大百科全書(ニッポニカ) 「脈診」の意味・わかりやすい解説
脈診
みゃくしん
東洋医学(中国医学)の診断と治療にもっとも重要な位置を占める診察法であり、四診とよばれる望診(ぼうしん)、聞診(ぶんしん)、問診(もんしん)、切診(せっしん)のうちの切診の一部でもある。脈診の目的は、病気の動静(陰陽)、病の所在位置(病位)、寒熱、正気や邪気(外因)の盛衰(虚実)、病因などを診断し、治方をみいだすことである。漢方の薬方では処方を決定し、鍼灸(しんきゅう)術では、臓腑(ぞうふ)と経絡(けいらく)・経穴(けいけつ)を特定する方法とされている。文献には、古くから幾種類かの脈診法が記述されているが、そのおもなものを古い順にあげる。
〔1〕十二経脈脈診、〔2〕寸口(すんこう)診(手の橈骨(とうこつ)動脈脈診)、〔3〕三部九候(さんぶきゅうこう)診(頭部、手部、足部にそれぞれ三か所ずつある脈動部で脈診する方法)、〔4〕人迎脈口(じんげいみゃくこう)診(頸(けい)動脈と橈骨動脈の強さを比較する脈診法)、〔5〕寸尺(すんしゃく)診(橈骨動脈の脈動部を茎状突起を境にして、手掌寄りを寸部、後部を尺部として脈診する方法)、〔6〕人迎気口(きこう)診・神門(しんもん)診(寸尺診の寸診法で、右手を気口脈とし、左手を人迎脈として、それぞれの脈状を診断して病因・症状をみいだす方法。ここでは尺診を神門診という)、〔7〕寸関(すんかん)尺診(六部定位脈診法ともいい、橈骨動脈の脈診部を寸・関・尺の三部に分け、左右六部に臓腑を配当して診脈する方法)。
漢方ではおもに寸口診のみを用い、鍼灸術では寸関尺診を用いているのが通常であるが、一部では人迎脈口診を採用している人々もある。
これらの脈診法は、歴史的に列挙することはできるが、それらの発展過程や相互関係は明確にされていない。しかし、脈動のなにを診るかという内容に関しては二つに大別することができる。すなわち、脈動の強さを比較する「比較脈診」と、脈の性状を診断する「脈状診」である(十二経脈脈診と神門診は脈動の有無を診るだけの原初的な脈診形態であるため、この二つは除かれる)。比較脈診に属するのは、三部九候診、人迎脈口診、寸関尺診であり、脈状診に属するのは、寸口診、寸尺診、人迎気口診である。ここでは、もっとも広く行われている比較脈診である寸関尺診と、脈状診として近年主張されている人迎気口診の特徴をあげる。
[井上雅文]
寸関尺診
両手六部の脈動の強さを比較し、もっとも弱い部を虚とし、強い部を実とする。虚を主たる状態と診るか、実を主たる状態とするかは、他の病症状や体格、年齢などの診断によって決定される。
[井上雅文]
人迎気口診
左手の人迎における特定の脈状は、特定の外邪(たとえばかぜ)を示すものであり、右手の気口は体の肥痩(ひそう)や気血などを示すものである。
[井上雅文]