膀胱の腫瘍のうち95%は膀胱の粘膜から発生する移行上皮癌(がん)である。発生率の男女比は4対1で男性に断然多い。明らかな原因として、喫煙と化学物質の被曝(ひばく)、芳香族アミンのベンチジン、β‐ナフチルアミンなどがある。ほかに明らかな原因は証明されていないが、食品、薬品などのうちに発生の要因と考えられるものがある。アフリカのナイル川流域の住民でビルハルツ住血吸虫症にかかっている人では、膀胱に扁平(へんぺい)上皮癌が発生する。
膀胱の移行上皮癌は、細胞の悪性度によって1度から4度までに分類されるが、一方、腫瘍の発育の形状から病期別に分類され、粘膜内癌を0またはCIS、有茎の乳頭状腫瘍はT1、筋層または中間層まで浸潤したものはT2、さらに深く浸潤したものはT3、周囲の臓器に及んでいるものはT4、リンパ節または他臓器に遠隔転移を有するものはN+またはM+とされる。
70%の腫瘍は膀胱の三角部とその周辺に発生する。まれに頂部に発生するものは腺癌(せんがん)で、胎生期の尿膜管遺残組織からおこり、きわめて悪性である。大部分の移行上皮癌では、一般に乳頭状で有茎性の腫瘍は予後良好で、広基性浸潤性癌は早期に遠隔転移をおこす。転移組織としては、所属リンパ節のほか、肝、骨、肺が多い。
臨床症状は、まず肉眼的血尿が重要で、間欠的にみられるが、膀胱炎のような頻尿や排尿時の痛みは伴わないのが特徴である。
臨床検査では血尿の証明以外に、尿の細胞診で癌細胞を証明する。画像診断では病期を決定するため、CTスキャン、超音波エコーをはじめ、静脈性腎盂(じんう)造影(IVP)、膀胱造影などが行われる。もっとも直接的な診断法は内視鏡検査で、同時に生検を行うが、乳頭状腫瘍は診断を兼ねて切除が容易に行える。
治療としては、表在性乳頭状腫瘍には内視鏡による経尿道的切除術(TURBT)が適応となる。しかし再発しやすいため予防目的でBCGマイトマイシンCなどの抗癌剤の定期的膀胱内注入が行われる。浸潤癌では膀胱全摘、リンパ節をきれいに切除するリンパ節廓清(かくせい)が必要で、これに伴って尿路変更術、腸を用いた新膀胱の形成による尿貯留層の造設術などが行われるが、多くは下腹部に集尿袋の貼布(ちょうふ)を要する回腸導管形成術が行われる。すでに遠隔転移をしている症例では、尿路再建、またはシスプラチンを含む多剤抗癌化学療法が行われる。
[田崎 寛]
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…膀胱粘膜上皮に発生する悪性腫瘍で,膀胱腫瘍の90%以上を占める。膀胱腫瘍には,このほかに悪性腫瘍である膀胱肉腫や良性の平滑筋腫などがあるが,きわめてまれである。…
※「膀胱腫瘍」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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