動物のいろいろな臓器を病気の治療や強壮剤として用いる療法を臓器療法organotherapyといい,これに用いる薬剤を臓器製剤という。臓器療法は草根木皮とともに非常に古くから行われた。とくに肝臓と,神秘的臓器と考えられた心臓の民間療法の歴史は長い。しかしこの療法に科学的根拠が与えられたのは新しく,去勢後の動物に現れる諸現象が,生殖腺で産生され血中に分泌される物質の欠如に基づくという,1775年T.deボルドゥの考え方に始まる。この考え方は,1849年ベルトルトArnold A.Berthold(1803-61)により実証された。去勢したオスのニワトリに睾丸を移植することによって,欠損した性徴を完全に回復させることができたのである。89年フランスの生理学者ブラウン・セカールが,イヌの睾丸のグリセリンエキスを自分に注射し,当時72歳であった彼が心身ともに活力を回復したと発表したことは有名である。この人体実験の結果は,今日の知識からは疑わしいが,ホルモンの製剤化と臨床応用への機運をつくった。ホルモンの化学的実体が不明で,分離精製が困難であった時代には,いろいろな内分泌器官の乾燥粉末,粗エキスが用いられた。乾燥甲状腺末(含まれるホルモンはチロキシン)は,現在も日本で正式に使用が認められている唯一の臓器製剤であり,家畜甲状腺を50℃以下で急速乾燥して得られる。脳下垂体後葉のアセトン乾燥粉末が子宮収縮剤として臨床上使われていたのも,それほど昔のことではない。最近,糖尿病治療の目的にランゲルハンス島を移植しようという試みがある。このような考え方は,臓器製剤ではないが,新しい臓器療法の開発といえよう。
執筆者:川田 純
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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