日本大百科全書(ニッポニカ) 「臨床宗教師」の意味・わかりやすい解説
臨床宗教師
りんしょうしゅうきょうし
死期が迫った患者や遺族に対して、宗教や宗派にかかわらず、また布教伝道をすることもなく、公共性のある立場からの専門的な心のケアを行う宗教者。死への不安、生きる意味の喪失感や罪責感、愛する人を失った悲嘆など、それぞれの心の苦しみや痛みを理解し、和らげるための支援を行うことを目ざし、その人材育成の動きが始まっている。欧米では臨床にかかわる宗教者として、教会や寺院などには属さず、病院や軍隊など人の生死に関係する場所で患者や遺族の心のケアに携わるチャプレンchaplainが活動している。臨床宗教師はこのチャプレンの日本版を目ざしている。
国内での専門家育成の動きの発端となったのは、2011年(平成23)3月に起きた東日本大震災である。当時、宮城県下の2050の宗教法人が加盟する宮城県宗教法人連絡協議会が主体となり、「心の相談室」を設置、仙台仏教会や仙台キリスト教連合をはじめ、多くの宗教者や医療関係者、ボランティアが宗教宗派を超え、遺族のケアや相談にあたった。この「心の相談室」の活動を踏まえ、2012年度、東北大学文学部に地元の宗教関係者らの寄付を受けた実践宗教学寄付講座が設立された(設置期限は3年間)。人の死に関する宗教的な心のケアを扱う専門講座で、国立大学でこのような講座がもたれるのは初めての試みである。将来的には、臨床宗教師の資格制度創設を目ざしている。
[編集部]