日本大百科全書(ニッポニカ) 「臨時軍事費特別会計」の意味・わかりやすい解説
臨時軍事費特別会計
りんじぐんじひとくべつかいけい
わが国において、明治以降、原則として宣戦布告を行った戦争時の戦費を、主として処理するために設けられた特別会計。これまで、〔1〕日清(にっしん)戦争、〔2〕日露戦争、〔3〕第一次世界大戦およびシベリア出兵、〔4〕日中戦争(日華事変)および第二次大戦、の4回にわたって設けられているが、このうち、宣戦布告の相手国以外と戦争行為のあったものがシベリア出兵、宣戦布告がなかったものが日中戦争である。
4回にわたる戦争の戦費としては、当特別会計のほかに、一般会計の臨時軍事費および同残務費、省別の臨時事件費がある。また、この四戦争以外の北清事変、山東出兵、満州事変は、いずれも臨時事件費で処理された。こうした各会計をつなぎ合わせると、1894年(明治27)6月から第二次大戦終了まで、わずか5か月間の中断があるだけで継続していた。この意味で、敗戦までの日本財政史は、戦費の歴史であったといえる。
当特別会計決算から第一に指摘できることは、そこに占める公債・借入金の比重がきわめて高いことである。第二次大戦に至るまで、借金で戦争をしても、勝利の際には領土、賠償、利権などで利益が得られ、戦争はペイするという認識があったことを暗示する。第二に、歴史を下るごとに物件費の比重が増え、人件費のそれが著しく低下している。軍の機械化・重装備化を意味するとともに、兵俸給の低さを物語る。第三に、卸売物価指数で歳出をデフレートすると、〔4〕を100としたとき、〔1〕は0.7、〔2〕は3.4、〔3〕は0.8であった。つまり第二次大戦は日清戦争の143倍、日露戦争の30倍の戦費であった。
[一杉哲也]
『大蔵省昭和財政史編集室編『昭和財政史Ⅳ 臨時軍事費』(1955・東洋経済新報社)』