業者が政府および公共機関のしかるべき地位にある公務員(政治家、特別公務員も含む)と結託して、形式的には公的手続によって獲得する権益をいう。通常、業者が提供する金品、供応、地位などに対し、法律発案権、予算決定権、徴収監察権、管理監督・行政指導権、許認可権、発注権、警察・検察権などを占有する権限をもつ官僚および官僚を監督指導する政治家の反対給付として成立する。日本では、第二次世界大戦前、官職を私的権利とみなす公職私有観が強かった前近代的な官僚制の下で、各種利権をめぐる大小の汚職事件が少なくなかった。戦後も、この傾向が完全には払拭(ふっしょく)されないまま、さらにケインズ流の世界資本主義の趨勢(すうせい)に歩調をあわせて、行政権が統制力を拡大した。そして、社会経済活動が国家・公共財政機能に依存する比重が著しく大きくなるにつれ、拡張増大された利権をめぐる、官僚・政治家の各種汚職行為が頻発してきた。
アメリカでも、古くは猟官運動をめぐるスポイルズ・システム(猟官制)が有名であったし、戦後は、軍需産業とこれを発注するペンタゴン(国防総省)の癒着に絡む「ミリタリー・インダストリアル・コンプレックス」(軍産複合体)などの利権問題も後を絶たないが、これをチェックする自浄機構も同時に活発に機能している。その点、わが国では、超長期政権と癒着しがちの官僚機構の公共事業等発注、補助金交付、国・公有財産払下げなどをめぐる直接的な、および企業の優遇税制などに絡む間接的な利権行為をチェックする自浄機能は弱い。
また、与野党の政権交代のない長期保守政権、および政治活動に多額の資金を要する日本の政治風土とそのシステムのなかでは、特定の省庁の政策に詳しく、その政策により利益を得る業界や企業を代弁するいわゆる族議員を中核とした高級官僚、業界、学会などを含む利権のネットワークが社会組織に牢乎(ろうこ)として組み込まれている。この構造的利権は、国家、公共予算の編成方針によって社会的基盤である鉄道、航空、山林、道路、港湾、ダム、河川、上下水道などのインフラ整備による利権から、金融、証券、医療・医薬品、介護、食品・飲料、環境浄化など、すべての官公庁のもつ許認可権や指導・監督権などの各種規制(約1万2000件以上あるとされる)の下に、新たなビジネスの発生による利権の誕生にもつながるのである。こうした利権の芽を断つには国民のよりいっそうの政治、行政への関心が望まれる。
[室伏哲郎]
『室伏哲郎著『高級官僚』(講談社文庫)』▽『室伏哲郎著『贈る論理贈られる論理――疑獄を生み出す日本的風土』(ちくま文庫)』
国家機関または官僚との人的かつ物的な結びつきをとおして,形式的には公的手続を経て与えられる権益のこと。利権の種類は,大別して政府資源の直接的利用によるものと政府活動による間接的権益の取得とに分けられる。具体的には,前者は政府融資の不正操作,国有ないし公的財産の払下げ,政府プロジェクトの独占的入札,各種補助金の交付等を意味し,後者は鉄道・道路・ダム建設等の公共土木事業の誘致,土地利用計画を含む開発行政,税制改革,業界法案の制定,電波の割当および各種の許認可業務等があげられる。さらに社会全般の国際化の傾向を反映して,利権自体も一国内にとどまらず国際化しつつある。すなわち古くは,帝国主義国家に通常みられた植民地・半植民地における利権設定を,政府活動を利用する場合の特殊なケースと考えることができる。また,田中角栄が関与したとされるロッキード事件は,日米両国を通じた国際的な利権設定行為の近年における代表例といえよう。現代の先進諸国は行政国家,福祉国家と呼ばれることからわかるように,政府活動の領域が飛躍的に拡大しており,しかもそれに伴い膨大な財源を扱うために,各種の圧力団体による利権争奪の傾向が顕著となっている。そこでは,相互の競争が激化するために,たび重なる陳情に加えて,裁量権をもつ官僚や立法に関与する政治家に金品や地位を提供して,その反対給付として利権を獲得することが常套(じようとう)手段と化す。それが発覚すると,前述のロッキード事件のように汚職ないし瀆職(とくしよく)として,ジャーナリズムをにぎわせることになる。
執筆者:御厨 貴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…これが中国における最初の租界である。租界は土地取得のしかたによって,コンセッションconcessionとセツルメントsettlementに分類される。コンセッションは外国政府が中国政府から永久租借した土地を各国領事を通じて個人に払い下げるもの,セツルメントは外国人が中国人の地主から直接に租借するものである。…
※「利権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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