自動車運賃(読み)じどうしゃうんちん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「自動車運賃」の意味・わかりやすい解説

自動車運賃
じどうしゃうんちん

自動車輸送サービスに対する運賃。一般に運賃とは、輸送サービスの売り手によって徴収され、買い手によって支払われる輸送サービスの代価のことをいう。

[木谷直俊]

認可運賃制

これまで、乗合バス、貸切バス、タクシー、トラックなどの運賃は、「道路運送法」(昭和26年法律第183号)により、業者がこれを決め、運輸大臣(現、国土交通大臣)の認可を受けるという形で設定される、いわゆる認可運賃であった。これは、自動車運送事業が一般公衆を対象とする営業であること、また、これらの事業が、規制されない場合には激しい運賃競争に陥るおそれのあることなどが考慮されているためであった。

[木谷直俊]

規制緩和による運賃の弾力化

しかし、近年の規制緩和の流れのなかで自動車運送事業の参入規制や運賃規制の見直しが行われている。

 乗合バスのうち、路線バスは2002年(平成14)2月からバスの規制緩和が行われ、上限認可運賃制が採用されている。運賃形態には通常、確定額をもって定め、対キロ区間制、特殊区間制、均一制および地帯制の各種があり、地域の実情に応じて適用される。すなわち、都市内路線では、均一性、地帯制または特殊区間制、都市近郊の路線では、特殊区間制または対キロ区間制、地方の路線では対キロ区間制が採用されている。貸切バスについては、2000年2月から参入規制が撤廃され、運賃は許可制から事前届出制となった。また、高速バスには、道路運送法の事業許可に基づく乗合バスと、旅行業法が適用される旅行会社が企画するツアーバスがある。ツアーバスの2012年4月の関越自動車道での死傷者事故を踏まえ、2012年7月から高速乗合バスの運賃制度を弾力的にするための変更が加えられた。すなわち、従来は運行日の30日前までに運賃と便数を届け出ることや一律運賃が原則となっていたが、新制度では届け出を運行日の7日前に短縮、運賃もピークオフピークに対応した運賃設定が可能となり、上限・下限(20%)を設ける幅運賃となった。

 タクシーについては、1993年(平成5)に同一地域同一運賃制が廃止された。さらに、1997年4月にゾーン運賃制(上限運賃の10%以内の範囲内で自由に値下げできる)が導入された。その後、2002年2月からはタクシーの規制緩和が行われ、上限認可運賃制が採用された。運賃形態については、距離制(時間距離併用を含む)と時間制があるが、原則として距離制運賃を適用している。特定の空港、鉄道駅、集客施設と、一定のゾーンとの間の運送の場合などは、定額運賃が採用されることがある。

 トラックについては、貨物自動車運送事業は「貨物自動車運送事業法」(平成1年12月法律第83号)によって事業への参入規制が廃止され、それまでの免許制から需給調整のない許可制となった。その結果、トラック業への参入を希望するものは一定の資格を満たせば誰でも参入できるようになった。これによって、従来存在していた路線トラックと区域トラックの区別はなくなり、運賃・料金も事前届出制となった。しかし、その後も、運賃・料金に関する規制緩和が進められ、2003年4月1日から運賃・料金規制は事後届出制になった。事前届出制の廃止に伴い、国土交通大臣は、運賃・料金が利用者の利便その他公共の利益を阻害している事実があると認められる場合には、当該運賃・料金の変更を命ずることができる。

 貨物運送事業者には、以下のような区別がある。

(1)一般貨物自動車運送業 他人の需要に応じ、有償で自動車(三輪以上の軽自動車および二輪の自動車を除く)を使用して貨物を運送する事業であって特定貨物自動車運送事業以外のもの。

(2)特定貨物自動車運送業 特定の者の需要に応じ、有償で自動車を使用して貨物を運送する事業。

(3)貨物軽自動車運送業 他人の需要に応じ、有償で自動車(三輪以上の軽自動車および二輪の自動車に限る)を使用して貨物を運送する事業。

 運賃の種類としては、以下のようなものがある。

(1)積合せ運賃 積合せ貨物運送(特別積合せ運送を含む)による貨物の輸送。((2)および(3)を除く)。確定額または幅運賃制(おおむね上限・下限10%以内)で、重量または容積および距離または地帯に応じたものとする。

(2)宅配便運賃 特別積合せ貨物運送およびこれに準ずる貨物の運送で30キログラム以下の1口1個の貨物を特別な名称を付して行う輸送に適用。確定額で、重量または容積および距離または地帯に応じたものとする。

(3)メール便運賃 特別積合わせ貨物運送またはこれに準ずる貨物の運送による書籍、雑誌書品目録、比較的軽量な荷物を荷送人から引き受け、それらを荷受人の郵便受箱等に投函することにより運送行為が終了する運送に適用する運賃。確定額で、重量または容積および距離または地帯に応じたものとする。

(4)貸切り運賃 車両を貸し切って行う貨物運送(引越)。((5)および(6)を除く)。確定額または幅運賃(おおむね上限・下限10%の範囲内)で、原則として、使用車両および距離または時間に応じるものとする。

(5)引越運賃 車両を貸し切って行う引越し貨物運送業。見積書の提出(無料)、付帯サービスを伴う。確定額または幅運賃(おおむね上限・下限10%の範囲内)で、原則として、使用車両および距離または時間に応じるものとする。

(6)特殊運賃 特殊な構造を有する車両を使用して運送するなど、前記の運賃体系になじまないもの。確定額または幅運賃(おおむね上限・下限10%の範囲内)で、原則として、使用車両および距離または時間に応じるものとする。

 なお、運賃以外に諸料金、実費等が含まれることがある。たとえば、引越の場合の料金体系は、運賃以外に諸料金として待機時間を考慮した車両留置料、交通渋滞を考慮した地区割増料、実費として積下ろし作業料、荷役作業料、横持ち割増料(道幅が狭く横に運ぶようなとき)、縦持ち割増料(エレベーターのない2階、3階)などが含まれる場合がある。

[木谷直俊]

『国土交通省編『国土交通白書』各年版(ぎょうせい。平成12年度版までは運輸省編『運輸白書』)』『中小企業動向調査会編著『業種別業界情報』各年版(経営情報出版社)』『交通協力会編・刊『交通年鑑』各年版』

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