自律訓練法(読み)じりつくんれんほう(英語表記)autogenic training

最新 心理学事典 「自律訓練法」の解説

じりつくんれんほう
自律訓練法
autogenic training

自律訓練法は自己催眠self-hypnosisの一種と見ることができるが,催眠状態に含まれている治療的要素を抽出し再構成した,自分自身で行なう心身両面にわたる自己コントロールself-controlである。自律訓練法は,19世紀末ドイツのフォクトVogt,O.が行なった睡眠と催眠状態の神経病理学的研究による「予防的休息自己催眠」や「分割催眠法」の開発に端を発している。同じころ,催眠状態の治療的効果について研究をしていたシュルツSchultz,J.H.によって,創始された方法である。この考えの起源には,自分で自分に暗示を与える自己暗示autosuggestionの臨床的効果に着目したクエCoue.E.のクエイズムがある。

 シュルツは,フォクトが治療的意義を見いだした中性的催眠トランス状態を,自分で得られるように工夫を重ね,1932年に『自律訓練法―集中性自己弛緩―』を公刊したのが,自律訓練法の始まりである。自律訓練法の標準練習は以下の6段階からなっている。

基本公式(安静練習)「気持ちがとても落ち着いている」

第1公式(四肢重感練習)「両腕両脚が重い」

第2公式(四肢温感練習)「両腕・両脚が温かい」

第3公式(心臓調整練習)「心臓が自然に静かに規則正しく打っている」

第4公式(呼吸調整練習)「自然に楽に息をしている」

第5公式(腹部温感練習)「おなかが温かい」

第6公式(額の涼感練習)「額が心地良く涼しい」

 標準練習は各公式を1週間から10日行ない,次の公式を付け加える。練習時は,受動的注意集中の仕方が重視される。標準練習の目標は,心身の内的弛緩を図り,これを通じて心身の再体制化,興奮沈静化への切り替えを達成することにある。標準練習に続いて,黙想練習,特定器官公式,意志訓練公式を行なう。黙想練習は,自己の内的体験を深化させるために,視覚イメージの系統的な発展を試みる。特定器官公式は,特定身体部位の生理的変化を図り,疾患や症状,問題を軽減させるためのものである。意志訓練公式は,特定の心理的な問題を克服するためのもので,目標により中和公式,強化公式,節制公式,逆説公式,実存公式などに分類される。その後,シュルツとともに自律訓練法の発展に努めたルーテLuthe,W.は,自律訓練法の臨床的,実験的研究結果を神経生理学的立場から,その治癒的メカニズムの理論構成を図り自律性解放や自律性除反応,自律性言語化などの概念を導入し,1969年に『自律訓練法Autogenic Therapy Ⅰ~Ⅵ』として体系化した。

 わが国では,井村恒郎による自発性訓練法や笠松章助による自発性鍛錬などの名称概略が紹介されていたが,1959年成瀬悟策が「Autogene(s) Training」の和訳を「自律訓練法」としてから今日の名称となった。1961年ころから自律訓練法の研究が盛んになり,わが国では医療にとどまらず心理臨床,教育,スポーツなどの領域で用いられた。そして1978年に池見酉次郎を中心に日本自律訓練学会が設立され今日に至っている。 →催眠
田中 新正〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「自律訓練法」の意味・わかりやすい解説

自律訓練法
じりつくんれんほう

注意の集中、自己暗示の練習によって全身の緊張を除き、心と体の状態を自分でうまく調整できるようになることを目的としてくふうされた段階的訓練法をいう。1932年に、ドイツの精神科医シュルツJ. H. Schultz(1884―1970)によって創始された。

[前田重治]

方法

外界からの刺激をできるだけ少なくし、閉眼、あおむけに横になるかソファにかけるなど、一定の受身的な姿勢をとらせ、自分で言語公式のことばをゆっくり反復しながら、さりげなく注意を集中(受身的注意集中)させるという原則からなる。まず「気持ちが落ち着いている」という基本公式を中心に、(1)両手両足が重たい、(2)両手両足が暖かい、(3)心臓が静かに動いている、(4)楽に息をしている、(5)胃のあたりが暖かい、(6)額が涼しい、という6段階の公式を1段ずつ、十分にできるようになってから次の段階へ進めていく。1日3回、1回に2~5分間練習し、終わったら、腕を強く屈伸し、深呼吸ののちに開眼するという「打ち消し」動作を行う。普通、2~3か月かけて完成する。

 これらの標準練習で、心身症、神経症、習癖の軽いものは軽快したり治っていく。また一般人の健康増進、ストレス解消、精神統一などの広い目的でも用いられる。さらに効果を高めるためには、標準練習のあと、セルフコントロールによる特定の心身の状態を自己統制する特殊練習や、イメージを浮かべて心の緊張解消を図る黙想練習を加える。

[前田重治]

『佐々木雄二著『自律訓練法の実際』(1976・創元社)』『松原秀樹著『音響によるセルフ・コントロール』(1981・音響企画社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「自律訓練法」の意味・わかりやすい解説

自律訓練法
じりつくんれんほう
autogenic training

心理療法,行動療法の基礎技法。 1932年,J.H.シュルツによって体系づけられた。身体の力を抜いてリラックスすることで,精神の安定やバランスをはかる治療法。1日3回,リラックスした姿勢で,手足の重さを感じる (重量感) ,手足のあたたかさを感じる (温感) ,楽に息をする (呼吸調整) などの練習を段階的に行う。意識を集中させ,自己暗示をかけることで,心身の機能・状態を自分でうまく調整できるようにする。自律神経失調症,習癖などの治療をはじめ,健康人のストレス解消など幅広く用いられている。

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世界大百科事典(旧版)内の自律訓練法の言及

【シュルツ】より

…ドイツの神経・精神医学者。自律訓練法の創始者。イェーナ大学医学部精神科教授,ベルリン精神療法研究所副所長を歴任し,第2次大戦後は個人開業した。…

※「自律訓練法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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