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催眠 さいみんhypnosis

翻訳|hypnosis

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

催眠
さいみん
hypnosis

一定の方法で導くことができる特有の心理・生理的状態で,被暗示性が亢進し,特異な意識状態に入る。さまざまの暗示的操作によって,トランスまたは催眠性トランスと呼ばれるこの状態に導くと,感覚,運動,記憶,思考,感情などが覚醒時とは異なったものになる。 F.メスメルが 18世紀末に初めて催現象を研究し,治療に用いたが,本格的に研究されるようになったのは 19世紀後半から。適当な技法を用いれば 75~95%の人がトランスに入るが,特に7~14歳の少年は催眠感受性が高い。精神分析を催眠下で行う技法を催眠分析と呼ぶ。これは,催眠によって抑圧をゆるめ,意識下の内容を表出させ,洞察に導くことを目的とする。

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デジタル大辞泉の解説

さい‐みん【催眠】

眠くなること。また、薬や暗示などにより人為的に眠けを催させたり睡眠に似た状態にすること。

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世界大百科事典 第2版の解説

さいみん【催眠 hypnosis】

催眠暗示によって特殊な心理・生理的状態をひき起こすこと,およびその状態をいう。欧米語はギリシア語のhypnos(眠り,その擬人化Hypnosは眠りをつかさどる神)に由来する。催眠という言葉が示すように睡眠と同一に考えられやすいが,今日その十分な解明はまだなされていないものの,種々の点で睡眠と異なる。心理的には被暗示性が亢進し,受動的な注意の集中がみられ,暗示によってカタレプシーなど異常な行為が可能となり,感覚閾値(いきち)の変化や特異な記憶,思考が生じる。

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大辞林 第三版の解説

さいみん【催眠】

ねむくなること。ねむけを催すこと。
〘心〙 暗示により人工的につくられる睡眠に似た状態。催眠状態では受動的な注意の集中がみられ、暗示にかかりやすい。 → トランス(trance)

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

催眠
さいみん
hypnosis英語
Hypnoseドイツ語

催眠法とよばれる手続によって、普段にはみられない特異な心身の諸現象が生起する。ことに意識や運動、記憶、知覚、思考、イメージなどの心理学的活動、脳波や筋電図、胃腸、循環器系、自律神経系などの生理学的な諸活動に変化がみられる。そうした催眠諸現象がおこるのは、その背景として、当人の心身が正常時とは異なる独特の状態にあるためと考えられ、これを催眠状態とよぶ。
 催眠というのは、この催眠状態をさすのが普通だが、その状態のときおこる特有の心身諸現象をいうこともある。催眠状態はトランスtranceともよばれ、睡眠に似ているけれども、詳しく調べると心理的にも生理的にも睡眠とは明確に区別すべきもので、むしろ覚醒(かくせい)時の心身諸現象に似ている。かつては精神的な障害をもつ人にみられるものと考えられていたが、精神病理的なものではなく、だれにでも人為的に生起できる現象とされている。ただ普段にはなかなかみることのできない心と体の動きや仕組みが拡大・強調された形で出現しやすいだけのことである。[成瀬悟策]

催眠法

催眠を生起させるための技法、すなわち催眠法は一連の暗示系列で構成されており、初めはだれでもが容易に反応する運動暗示を、ついで五官にかかわる知覚暗示、さらには記憶暗示、人格暗示のように、特殊性の高いものへと順に反応させていくうち、自然に催眠状態になっていく。この手続を催眠誘導暗示という。その結果生じた催眠状態はトランスとよばれ、正常覚醒時とは異なる意識の変性がみられ、外界や現実への志向的な心構えが希薄となり、主観的、内的な世界に心が向けられ、想像やイメージの活動が盛んとなり、被暗示性が異常に高まり、催眠者すなわち催眠法を行う人に対する絶対依存的態度が顕著になる。[成瀬悟策]

歴史

催眠が科学として成立したのは1770年ごろからだが、実際に行われたのはずっと古く、有史以前から、人類の歴史とともにあり、地球上のあらゆる地方の、どんな民族にも親しまれてきたといってよい。その多くは宗教上の儀礼と医療の場、政治・裁判などにおいて行われた。宗教儀礼では僧侶(そうりょ)や司祭により一定の方式で誘導されるか、自ら想念を凝らして忘我恍惚(こうこつ)の境に入り、神や死霊と交信する霊媒やシャーマニズムshamanism関連のものが多い。古代エジプトの眠りの神殿では催眠誘導で治療効果をあげたといわれている。原始的なシャーマニズムの催眠は予言や医療と結び付き、朝鮮の巫覡(ふげき)、日本の巫女(みこ)、ユタなどとして今日にまで及び、シベリア・エスキモー、アメリカ先住民、アフリカ諸地方、インドネシアのバリ島など、それぞれのものがいまにみられる。ケルト人の僧侶は呪文(じゅもん)を反復して占者がトランスになったところで、次期に選ばれるべき王を幻視させたり、事件の吉凶を予言させたという。日本にも巫女に、次の左大臣をだれにすべきかを占わせた記録がある。19世紀後半になっても、欧米の法廷では真実を語らせるため、被告を催眠させたといわれる。
 科学的催眠の始まった当初、フランスではF・A・メスメルが、イギリスではブレードJames Braid(1795―1860)が有名であったため、小説などでは催眠のことがメスメリズムとかブレーディズムなどの名称でしばしば登場する。ヒプノティズムhypnotismということばもイギリスでは長い間用いられたが、第二次世界大戦後アメリカの臨床・実験催眠学会The Society of Clinical and Experimental Hypnosisがこれを廃してヒプノシス(催眠)を用いるように決めて以来、国際的に広くそれに従うことになっている。[成瀬悟策]

研究

催眠は単一現象というよりも、人間の心身活動の非常に微妙な複合現象であるから、多くの碩学(せきがく)たちは、この催眠のある特殊面に着目することで、新しい彼らの方法や理論を発展させていった。感情表現が催眠中には強く行われることから、フロイトはカタルシス療法に注目し、精神分析の理論と方法を発展させていった。ジャネが無意識に気づいたのも、サービンが役割理論という社会心理学の考え方を展開したのも、そのいずれもが催眠研究のなかからであった。催眠の研究は次の三つの相に分けて考えられる。
(1)催眠状態が誘導されるまでに生起する諸現象、ことに被験者の内面的・心理的な変化の過程
(2)その状態になったとき、心理的および身体的にそれがいかなる特性をもつか
(3)およびこの状態、すなわちトランス中の特性を利用すると、正常覚醒時と異なるいかなる現象がみられ、どのようにそれを利用できるか
という問題である。
 これらをさらに大きく分けると、実験的研究と臨床的な研究とがある。知覚や記憶、動作、思考、人格などに関する心理学的研究と、脳波や筋電図、循環器系、自律神経系に関する生理学的研究は前者に属する。臨床的研究としては、まず第一に心理療法(精神療法)があげられる。催眠の特性を利用すると、さまざまな既成の心理療法が、正常覚醒時よりも進めやすくなるからである。カウンセリングまで催眠中に行われるものがある。精神分析も、行動療法も、いずれも催眠中に行われて有効なことが知られている。これらは他者催眠によるものであるが、自己催眠を用いる場合もある。シュルツJohannes Heinrich Schultz(1884―1970)の自律訓練法や成瀬悟策の自己コントロール法はその例である。[成瀬悟策]

利用

生理学を基礎に置く現代医療においても心理的な条件を無視することができず、むしろますますそれが重視されるようになった。ことに心身相関現象の研究に基礎を置く心療内科学がわが国に発足した1963年(昭和38)以来、内科学を中心として心身症といわれる諸症状の治療には他者催眠・自己催眠を含めて、催眠関連治療法がさまざまに行われ、さらに自己催眠の一種である自律訓練法が広く行われるようになっている。痛みの感じは心理的な条件に大きく作用されるため、そのコントロールに古くから催眠が用いられ、抜歯や切削、その他歯科学的な諸処置、無痛分娩(ぶんべん)やつわり、月経、母乳分泌、その他の婦人科学的な諸症状の調整などではその後も引き続き活用されている。さらに70年ごろより末期癌(がん)患者をはじめ外科手術における催眠無痛hypnotic analgesiaの研究が改めて積極的に行われるようになっている。また1966年以来、脳卒中後遺症や脳性麻痺(まひ)の人における肢体不自由の改善・自由化に催眠が有効なことがわが国で独自に注目され、その治療システムが実用化されて国際的にも知られるようになり、韓国、中国、マレーシア、タイ、カンボジア、イランなどアジア、中近東の諸国ではこの訓練法が適用されている。
 東京オリンピックに備えてスポーツ選手の「あがり」対策や技術向上のために催眠が用いられ、その成果が発表された1973年の国際学会以来、スウェーデン、ロシア、ブルガリア、ルーマニアなどで積極的に実用化されてきたが、その成果がソウル・オリンピック以来わが国のスポーツ界に逆輸入され、普及するようになった。催眠中の練習によって、心身の急速で深いトランスに入って後、ただちに覚醒、急速・強力にウォーミングアップしてそのままスタートラインにつくというリラックス・ウォームアップ法relax warm-up methodや、予想される競技場面をあらかじめ心に描いて予演するメンタル・リハーサル法mental rehearsal method、実際に体を動かして練習するのでなく、心のなかでイメージによって練習するメンタル・プラクティス法mental practice method(イメージ学習image learningともいう)などはスポーツ界に限らず広く一般に用いられるようになっている。
 記憶や認知の変容などとして教育の分野でも古くから実験的に研究されてきたが、1966年教育催眠educational hypnosisが提唱され、わが国独自の研究・応用が進められるようになった。催眠誘導過程で児童・生徒と教師との間に望ましい人間関係が形成されやすいこと、より深いカウンセリングが可能なこと、自分の置かれた状況を積極的に認知し、対応しやすいことなどがあげられる。また催眠中には記憶や認知、イメージなどの活動が盛んになるので、たとえば物理的な現象を具体的な力学関係で理解したり、分子構造や化学変化の学習などをはじめ、作文、芸術鑑賞、創造活動や創造性開発から体育やスポーツなど諸教科学習に適用して効果のあがることが報告されている。
 忘却していた犯罪場面について、催眠中に真実の記憶が回復して無罪をかちとった有名なケースが発端となって、1970年ごろよりアメリカで司法催眠forensic hypnosisが大きく取り上げられるようになった。検事の立場で用いられてきた従来の催眠が、被告の立場から犯罪の状況や動機の解明に用いられ、イギリスやオーストラリアなど、陪審制度の国々では新しい動きとなっている。一方、判決が裁判官という専門家の判断のみに委ねられるわが国やドイツなどでは、そうした動きはまったくみられない状況である。[成瀬悟策]
『成瀬悟策著『催眠』(1960・誠信書房) ▽長田一臣著『スポーツと催眠』(1970・道和書院) ▽佐々木雄二著『自律訓練法の実際』(1976・創元社) ▽斎藤稔正著『催眠法の実際』(1987・創元社) ▽成瀬悟策著『自己コントロール法』(1988・誠信書房) ▽栗山一八著『催眠面接の臨床』(1995・九州大学出版会) ▽成瀬悟策著『催眠の科学』(1999・講談社)』

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世界大百科事典内の催眠の言及

【催眠療法】より

…催眠を用いた治療の総称。治療者が患者に対して行う場合を他者催眠,患者自身で行う場合を自己催眠という。…

【精神分析】より

…以下,フロイトの定義を尊重しながら治療としての精神分析,理論としての精神分析,応用としての精神分析に3大別して解説し,最後にフロイト以後の精神分析の動向を概観することにしたい。
【治療としての精神分析】
 フロイトと一時親交のあった内科医ブロイアーJ.Breuer(1842‐1925)は,神経症の一類型であるヒステリー患者に対して催眠を施したのち,目下の神経症症状にまつわるさまざまな追想を感動を伴って患者に物語らせることによって症状を消失させる精神療法をくふうした。フロイトはこのブロイアー法を追試しているうちにやがて催眠を放棄し,ブロイアーのように特定の主題について追想を促すこともやめ,自由連想法を創始した。…

※「催眠」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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