日本大百科全書(ニッポニカ)の解説
自然失業率仮説
しぜんしつぎょうりつかせつ
natural rate hypothesis
長期均衡とは、一定の実質賃金率のもとで労働の需要と供給が一致する(完全雇用)だけでなく、インフレ率についての予想と実際が一致している(完全予想)状態のことで、理論上の基礎概念である。完全雇用の場合でも、現行賃金率よりも高い賃金率の仕事を探して求職活動をする失業者や、新しい仕事につくために準備中の失業者がいるので、統計調査上の失業率は0%ではなく、あるプラスの値となる。インフレ率がどのような大きさであってもそれが完全に予想されている限り、企業も労働者もそのインフレの効果を完全に調整したうえで行動するので、長期均衡失業率の大きさがインフレ率の大きさによって影響されるはずはないというのが、この仮説の内容である。
フリードマンは、長期均衡失業率の値が労働市場の効率性、競争または独占の程度、各種職業につくことに対する障害または奨励などの実物的要因によって決定され、インフレ率のような貨幣的要因からは独立であることを明示するために、長期均衡失業率をとくに自然失業率とよんだのである。
自然失業率仮説によれば、実際のインフレ率



と表される。これをフィリップス曲線の式の形に変形すると

となる。ケインズ派の単純なフィリップス曲線の仮説は、物価安定と両立する失業率をUk、βを正の係数として

と表されるので、フリードマンは、ケインズ派の仮説は予想インフレ率

かりに経済が





短期フィリップス曲線がS1S1へシフトしたにもかかわらず、失業率をU1の水準に維持するためには、総需要増加率を加速してインフレ率を

『M・フリードマン他著、新飯田宏訳『インフレーションと金融政策』(1972・日本経済新聞社) ▽M・フリードマン著、保坂直達訳『インフレーションと失業』(1978・マグロウヒルブック) ▽西山千明編著『フリードマンの思想』(1979・東京新聞出版局) ▽加藤寛孝著『マネタリストの日本経済論』(1982・日本経済新聞社) ▽M.FriedmanThe Role of Monetary Policy,American Economic Review(March 1968)/Reprinted in his The Optimum Quantity of Money and Other Essays(1969,Aldine Publishing Co., Chicago) ▽E.S.PhelpsPhillips Curves,Expectations of Inflation and Optimal Unemployment Over Time,Economica(August 1967)/Reprinted in his Studies in Macroeconomic Theory,vol,1,Employment and Inflation(1979,Academic Press,New York)』
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