自然発生説(読み)しぜんはっせいせつ(英語表記)theory of spontaneous generation

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

生物が親から子へという道をとらず,無生物から発生するという。 16~17世紀までは高等な動物などについてもこのようなことがありうると考えられていた。たとえば小麦粉からネズミを生じ,腐肉からハエうじを生じるというようなことで,まじめにその処方を書いた者もあった。 F.レディは 17世紀後半に,ハエのうじの自然発生実験により否定したが,微生物については多くの論争があり,19世紀の後半になって L.パスツールが微生物の自然発生も否定するまで続いた。

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百科事典マイペディアの解説

偶然発生説とも。生物は親なしに生じ得るという考え。生物が自然発生するという考えは古くはごく当然のこととして信じられ,アリストテレスなどもウナギ,ネズミ等高等動物においてさえ認めている。F.レディ容器をするかガーゼでおおってハエがたからないようにした肉片にはウジが発生しないことを証明(1668年)したが,微生物についての問題はもちこされた。自然発生を証明し得たというJ.T.ニーダムとそれに反対するスパランツァーニの論争などを経て,19世紀後半パスツールの実験によって現在の自然環境のもとでの自然発生説は完全に否定された。

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世界大百科事典 第2版の解説

生物が親なしに物質から一挙に偶然生ずることがあるとする説。古来日常的にも学問的にも自然発生spontaneous generationはありうるとされてきた。アリストテレスはウナギの自然発生を認めていたし,近代に入るまで自然発生を否定する人はいなかった。17世紀にレディF.Redi(1629‐97)は,(うじ)の自然発生を実験的に否定し,それにつづき昆虫などのありそうに思われた自然発生が否定されたことにより,17世紀後半には,自然発生はないとされるようになった。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

生物が親なしにも生じうる、いわば自然にわいて出ることが可能であるという考え。偶然発生説ともいう。たとえば、腐った肉からウジがわき、湿った土からカエルやネズミが生じるということは、洋の東西を問わず古代の人々の通念であり、最古の動物分類大系といわれる紀元前のインドのそれは、動物を、子宮から生まれるもの、卵から生まれるもの、湿気と熱から生まれるもの、野菜から生まれるもの、というように、その発生の仕方で四つに分類している。このような考えは、かならずしも彼らの世界観からの結論ではなく、ウジやカエルが突然肉や土中から現れてくるという、むしろ素朴な観察から確認された結論といえる。それゆえ、神による創造説を信じながら、自然発生説もまた素朴な信念として、その後も広く行き渡っていた。それと同時に、この世界には生命の要素(胚種(はいしゅ))が広がっており、それによって無機物が組織されて生物になるという生気論的世界観と結び付いた自然発生説も存在した。近代に入って何度も行われた自然発生説をめぐる論争は、この生気論的世界観と機械論的世界観の対立であったといえる。

 自然発生説に対する最初の実験的否定は、17世紀にイタリアのレーディF. Redi(1626―97)によってなされた。彼は、肉を入れた容器を布で覆っておけばウジが発生しないことを示し、ウジの出現にはハエが卵を産み付ける必要があることを示した。その後、生物の複雑な構造が明らかにされたこととも相まって、高等生物の自然発生は信じられなくなった。しかし、そのころ、レーウェンフックにより微生物の存在が確認され、18世紀に入ってからは問題は微生物の自然発生に移される。この論争は、19世紀後半に、パスツールが巧妙な実験で、微生物の自然発生は空気中の胞子が侵入して繁殖することにほかならないことを証明するまで続いた。

 このように、自然発生説は完全に否定されたが、地球の発展過程の一段階として生起した生命の自然発生まで否定されているわけではない。

[上田哲行]

『パストゥール著、山口清三郎訳『自然発生説の検討』(岩波文庫)』

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精選版 日本国語大辞典の解説

〘名〙 生物が親からではなく、無生物から発生しうるという説。アリストテレス以来信じられてきたが、パスツールに至って否定された。現在、下等で微小な生物でさえも自然発生はしないとされている。自然発生。偶然発生説。〔生物と無生物の間(1956)〕

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