舎密開宗(読み)セイミカイソウ

デジタル大辞泉 「舎密開宗」の意味・読み・例文・類語

セイミかいそう【舎密開宗】

江戸後期の翻案化学書。21巻。天保8年(1837)刊の日本最初の化学書。英国人W=ヘンリー原著のドイツ語訳をさらにオランダ語訳した本を宇田川榕庵が訳し、自らの実験や考察を加えたもの。

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精選版 日本国語大辞典 「舎密開宗」の意味・読み・例文・類語

セイミかいそう【舎密開宗】

  1. 江戸後期の翻案化学書。二一巻(内編一八巻、外編三巻)。イギリス人ウィリアム=へンリー原著「An Epitome of Chemistry」(一八〇一)のオランダ語訳を宇田川榕庵が訳述したもの。天保八~弘化四年(一八三七‐四七)刊。単なる訳だけでなく、榕庵自身の行なった実験記録や独自の考えも取り入れた日本最初の化学書として意義が大きい。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「舎密開宗」の意味・わかりやすい解説

舎密開宗
せいみかいそう

日本初の体系的化学書。宇田川榕菴(ようあん)の訳述。大半が仮名交じり文で、内篇(へん)六篇(各篇3巻、計18巻)、外篇1篇(3巻)からなる。1837~1847年(天保8~弘化4)に順次、稿なり刊行された。その内容は、18世紀末のラボアジエ化学体系、さらにデービーベルツェリウスの電気化学など1820年代までの成果を取り入れている。しかしドルトン提唱(1803)の原子・原子量の考えはほとんどない。内篇は理論化学で、巻1は総論として化学親和力、状態変化、熱素など、巻2~9は酸素・窒素・水素・水・アンモニアなど無機化合物非金属、巻10~15は同金属、巻16~18は有機化合物(植物)が書かれ、295章蝋(ろう)で終わる。外篇は応用化学で、鉱泉分析法などである。さらに未刊の稿本として、内篇巻18の296章以下と巻19~21(動物化学、310章膠に始まる)、および外篇巻4~5(鉱物などの分析法)、巻6(試薬の純度などの分析法)などが現存する。『舎密開宗』の原書は、イギリスのW・ヘンリー著『An Epitome of Experimental Chemistry』(1801初版、のち『Element of Experimental Chemistry』と改題、1810第六版)のドイツ語訳書を、さらにイペイAdolf Ijpeij(1749―1820)がオランダ語訳した『Chemie, voor beginnende Liefhebbers』(1803)ものであるとされる。

 このほか、ラボアジエの『化学綱要』のオランダ語訳本(1800)、イペイの『依氏広義(いしこうぎ)』(1804~1812)、スマルレンブルグF. van Catz Smallenburgの『蘇氏舎密(そしせいみ)』(1827~1833)など24冊の蘭(らん)書、さらに和漢の書が参考、引用され、また榕菴自身が行った実験記録も書かれている。その意味で本書は、単なる訳書ではなく、研究書といえる。その用語(たとえば、元素、酸素、水素、窒素、酸、アルカリ、物質、燃焼、酸化、還元、温度、飽和など)の多くが今日も使われており、わが国の化学に与えた影響は大きい。

[道家達將]

『田中実校注『舎密開宗』(1975・講談社)』『坂口正男他著『舎密開宗研究』(1975・講談社)』『道家達將著『日本の科学の夜明け』(1981・岩波書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「舎密開宗」の意味・わかりやすい解説

舎密開宗 (せいみかいそう)

幕末の洋学者宇田川榕菴が訳述し,1837年(天保8)から約10年をかけて,江戸青藜(せいれい)閣から出版された日本最初の体系的化学書。内編6編(各編3巻,全18巻),外編1編(全3巻),計21巻から成る。巻1に化学親和力,溶解,熱素による状態変化などの総論,巻2~15に無機化学,巻16~18に有機化学,外編3巻には温泉分析など分析化学が書かれている。

 原本は,〈序例〉によれば,イギリスのヘンリー(W.Henry)原著 《化学入門An Epitome of Experimental Chemistry》の第2版(1801)を,ドイツ人のトロンムスドルフJ.B.Trommsdorff(1770-1837)が増注しドイツ語訳本としたものを,さらにイペイA.Ypey(1749-1820)が増注してオランダ語に重訳し,アムステルダムで1808年に刊行したもの(これは《Chemie voor Beginnende Liefhbbers of Aanleiding》(1803)とされる)という。榕菴は,原本のほかラボアジエ著《Traité élémentaire de chimie》(1789)の蘭訳本《化学原本》(1800),イペイ《依氏広義》(1804),スマルレンブルグ《蘇氏舎密》(1827)など二十数冊の蘭書,さらに和漢書を対照・引用し,また自ら実験・考察も行って本書を書き上げており,単なる訳書ではない。その内容の理論的骨格は,ラボアジエ化学体系であり,ドルトンによる原子論化学体系については,ほとんど述べられていない。とはいえ,本書において,化学元素の概念を中心に,化学物質の名称と特性,化学反応,化学実験の方法,器具・装置,操作などにつきラボアジエ化学体系はほぼ全面的に消化され,日本語の体系に移植されており,その後の日本の化学の基礎となった。なお刊本のほか,未刊稿本として内編巻19~21(動物科学),外編巻4,巻5の稿本(塩,鉱物などの分析)が現存している。
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山川 日本史小辞典 改訂新版 「舎密開宗」の解説

舎密開宗
せいみかいそう

江戸後期,宇田川榕庵(ようあん)訳の日本最初の本格的化学書。内編18巻・外編3巻。1837~47年(天保8~弘化4)刊。片仮名交り文。原書はイギリスのW.ヘンリー「化学入門An Epitome of Chemistry」(第2版,1801)で,トロムスドルフの独訳をへたイペイの蘭訳本(1803)を基本として,18世紀末のラボアジエ化学の体系をまとめている。内編は序文の化学史から,元素・化学親和力などの総論,非金属・金属,有機物の植物成分など各論的記載に詳しい。外編は鉱泉分析法など。注・実験・考察など単なる訳をこえる内容で,明治期に至るまで大きな影響を与えた。酸素・硫化水素・炭酸瓦斯など多くの化学用語は現在まで及ぶ。田中実校注「舎密開宗」所収。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「舎密開宗」の意味・わかりやすい解説

舎密開宗
せいみかいそう

宇田川榕庵が翻訳した日本最初の近代化学のテキスト。 21巻。天保8 (1837) ~10年刊。原本はイギリスの化学者 W.ヘンリーの"Elements of Experimental Chemistry" (1799) のドイツ語訳から A.イペイがオランダ語に訳したアムステルダム版 (1808) である。「舎密」は chemieの音訳である。このなかで榕庵は多くの術語を訳して使っている。しかも榕庵はただ訳しただけではなく,23種もの書物を参照して,増注としてこの書を完成した。この書によって,日本において初めて,近代化学の本質と特徴が正しく認識されて紹介された。

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旺文社日本史事典 三訂版 「舎密開宗」の解説

舎密開宗
せいみかいそう

江戸後期,宇田川榕庵の翻訳した化学書
1837〜47年刊。21巻。「舎密」はオランダ語chemie(化学)の音訳。イギリスの化学者ウィリアム=ヘンリーの名著『An Epitome of Chemistry』の独・蘭語訳からの重訳をもとに,フランスの化学者ラボアジェの研究もとり入れた独創的翻訳書。

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世界大百科事典(旧版)内の舎密開宗の言及

【宇田川榕菴】より

…経文形式の日本最初の植物学書《西説菩多尼訶経(せいせつぼたにかきよう)》,コレラの症状と治療法《古列亜没爾爸斯説(これあもるぶすせつ)》稿,《生石灰の解凝力》稿,和・漢にない西洋薬の本《遠西医方名物考》36巻(宇田川玄真訳・榕菴校補。1822‐25),《同補遺》9巻(1834),《厚生新編(虫属)(昆虫通論)》,和・漢にある薬の西洋式利用法《新訂増補和蘭薬鏡》(宇田川玄真著・榕菴校補),日本各地の温泉の化学分析レポート《諸国温泉試説》,《植学啓原》3巻付図1巻(1835),《植学独語》稿,《動学啓原》稿,《舎密開宗(せいみかいそう)》。なかでも《遠西医方名物考補遺》巻七~九は,〈元素編〉巻一~三とあり,ラボアジエの元素概念の日本への最初の紹介の刊本として,《植学啓原》は本格的な植物学の刊本,そして《舎密開宗》は日本最初の体系的な化学の刊本として,用語をはじめ後世に与えた影響は大きい。…

※「舎密開宗」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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