改訂新版 世界大百科事典 「航空機材料」の意味・わかりやすい解説
航空機材料 (こうくうきざいりょう)
aircraft materials
航空機は空を飛ぶために極力軽く作る努力が払われる。重ければ,空へ飛び上がれないだけでなく,たとえ飛び上がっても性能は悪くなり,経済性も悪くなってしまうからである。軽ければ,よりよい性能,より高い採算性が得られる。もちろん,電車や自動車,船などでも,軽量化は性能を向上させ採算性をよくするが,その影響は空を飛ぶ航空機のほうがはるかに大きい。したがって,航空機の場合,材料の選定にあたっては,加工性,性質の均一性,耐久性なども考慮されるが,“軽くて強いこと”が最も重視される。そのためにある程度高価になってもやむをえないとされ,1980年代の航空機の場合,構造重量の1kgの軽減に対し,戦闘機では50万~80万円,旅客機では10万~20万円をかけても十分引き合うと考えられている。窓材料,内装材など,部分によって用いられる材料にはさまざまなものがあるが,ここでは航空機にとって最も重要な機体材料について述べることにする。
初期の飛行機は木で骨格を作り,それに羽布を張って作られていた。良質な木材は軽く,その割に強度が高いため,部材に加わる荷重が小さい初期の飛行機では,木を使用すると適度の太さの部材で必要な強度を得ることができた。また木材には加工が容易であるという大きな利点がある。今日でも,軽飛行機やグライダーには木材を使用しているものが少なくない。第1次世界大戦の後半期に入ると,飛行機の性能も向上し,加わる荷重も大きくなったので,木材に代わって薄肉の鋼管を骨格に使った飛行機が登場した。しかし骨格羽布張り構造では,性能向上にも,大型化にも限界があった。航空機の能力が飛躍的に向上し,旅客輸送,あるいは戦力としても重要な役割を果たすようになったのは,アルミニウム合金の一種であるジュラルミンが実用化され,1930年代に入ってこれを用いた全金属製モノコック,あるいはセミモノコック構造の飛行機が作られるようになってからである。ジュラルミンそのものは,20世紀の初めに発明され,ツェッペリン飛行船の骨格に使用されてはいたが,本格的に飛行機に使われるようになるのには,構造設計の理論,加工や防食の技術の整う1930年代まで待たねばならなかった。ジュラルミンは,軟鋼とほぼ同じ強度をもっているが,比重は2.8とその1/3にすぎず,その強さと軽さは航空機材料としてはうってつけといえる。その後,超ジュラルミン,超々ジュラルミンなどのより優れたアルミニウム合金が発明され,軟鋼の1.2~1.4倍の強度が得られるようになっており,これらのアルミニウム合金は,強度重量比が大きいだけでなく,切削性,成形性もよく,価格もそれほど高価ではないので,今後も航空機用材料の主流になると考えられている(アルミニウム合金)。
飛行機の速度がM2.7(マッハ2.7,音速の2.7倍)を超えるようになると,空力加熱のため機体表面温度が200℃に近くなるので,アルミニウム合金は強度が低下し使用できなくなる。このような高速機用の材料として期待されているのが,チタン合金である。チタン合金は軟鋼の2~3倍の強度をもち,強度重量比はアルミニウム合金より高く,また,疲労に強い,亀裂が延びにくい,腐食しにくいという利点をもつが,素材が高価で,成形加工がむずかしく,切削性も悪いなどのため,現在のところ一般の飛行機では,防火壁,耐熱部,フラップのレールなど,限られた個所にのみ使われている。
このほか,クロム,モリブデン,ニッケルなどを加えた特殊鋼は,発動機架,脚,ボルト・ナット,金具,操縦索など荷重の集中する部分に,またステンレス鋼は耐熱性を生かして防火壁に使われており,耐食性は悪いがマグネシウム合金もギヤボックスなどに鋳物として利用されている。
これらの金属材料に代わって,航空機の重量を軽くする材料として現在脚光を浴びているのが,繊維強化プラスチック(FRP)である。最初に実用化されたFRPはガラス繊維を使用したもので,この材料は荷重を受けたときの変形が大きいため,アンテナのカバー,レドームなどに使われただけであったが,炭素繊維,アラミド繊維などで強化されたプラスチックが登場し,機体構造への大幅な適用の道が開けてきた。炭素繊維で補強されたプラスチック(CFRP)は,比重1.5と鉄の約1/6だが,特殊鋼並みの強度があり,アルミニウム合金をすべてCFRPに置き換えることにより,構造重量の20%近い軽減が期待でき,すでに主翼をすべてCFRPで製作した戦闘機も登場している。
→強化プラスチック
執筆者:鳥養 鶴雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報