翻訳|ironworks
製鉄所という名称は銑鋼一貫製鉄所の意味で用いられるのが普通である。銑鋼一貫製鉄所は鉄鉱石から鉄を取り出し,これをもとに鋼板,鋼管,形鋼,棒鋼,亜鉛鉄板などの最終製品を作り出す製鉄工場を意味し,このような工場をもつ製鉄会社を銑鋼一貫メーカーともいう。これに対し,購入屑鉄(スクラップ)を電気炉で溶解し,これを最終製品に仕上げる場合を電気炉メーカー,さらに,スラブと呼ばれる半製品を銑鋼一貫製鉄所から購入し,これを最終製品に仕上げる製鉄会社を単圧メーカーと呼んでいる。銑鋼一貫製鉄所は図に示す4工程からなっている。後に述べるように日本の銑鋼一貫製鉄所はすべて臨海製鉄所であり,海上からの原料搬入から海上への製品搬出までの物の流れを合理的に考えた設備配置が採用されている。このような設備配置(レイアウト)の合理化は,エネルギーの有効利用,製品の歩留り向上など,生産管理の面で大きな利点をもたらす。大規模生産を高度な生産管理技術によって行うことが日本の新鋭製鉄所の技術競争力の源泉となっている。日本の近代的な銑鋼一貫製鉄所は,1953年に建設された川崎製鉄千葉製鉄所が初めであり,その後急速な経済成長とともに続々と大型の銑鋼一貫製鉄所が建設された。80年時点において粗鋼製造能力は約1億tに達し,年間粗鋼生産能力が600万t以上の製鉄所は10ヵ所にものぼっている。ちなみに,日本を除く自由世界で,同様の能力をもつ製鉄所は8ヵ所にすぎない。
長い歴史をもつ欧米の製鉄所は,鉄鉱石,あるいは石炭を産出する地域に近接して建設されたために,内陸に位置するものが多いが,日本の場合は鉄鉱石,石炭の大半を輸入する必要があること,また周囲が海洋であることから,全国22ヵ所の銑鋼一貫製鉄所のほとんどが太平洋沿岸に位置している。これは原料の搬入,製品の搬出を容易にし,輸送コストの面から輸出入を有利にしている。欧米でも近年その有利性が認識され,臨海製鉄所が出現している。オランダのエイマイデン製鉄所,イタリアのターラント製鉄所,フランスのダンケルク製鉄所,アメリカのスパローズ・ポイント製鉄所などはその好例である。
しかし,1970年代の2回にわたる石油危機に端を発した経済成長の鈍化と,建設費用の高騰により,80年以降,日本での大型製鉄所建設の構想は皆無であり,また発展途上国での経済自立を目的とした銑鋼一貫製鉄所の建設も非常にむずかしくなってきている。ちなみに82年時点の日本での製鉄所建設コストは製品トン当り25万円ともいわれ,たとえば,日本でふつうにみられる粗鋼生産量600万t/年の製鉄所建設には1兆5000億円もの莫大な費用が必要であった。
執筆者:槌谷 暢男
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