荷役運搬機械(読み)にやくうんぱんきかい(英語表記)materials handling equipment

改訂新版 世界大百科事典 「荷役運搬機械」の意味・わかりやすい解説

荷役運搬機械 (にやくうんぱんきかい)
materials handling equipment

生産や物流の施設における,原材料や部品や製品など,あらゆる有形の物の移動(上げ下げおよび横移動),保管およびこれらに付随する取扱いを荷役運搬といい,これに用いられる機械を荷役運搬機械と総称する。船,貨車,トラックなどと埠頭ふとう),倉庫,資材置場などとの間の荷の積卸しを荷役,生産や物流の施設の構内やこれに準ずる特定範囲内の荷の移動を運搬と呼び分けることもあるが,近代産業の様態においては,これらは別個の独立した行為としてではなく,一連の物の移動として考えたほうがよく,さらには保管の分野をも含めた総合的な荷役運搬という概念に基づいて物の取扱いを計画することが,生産・物流の合理化のうえで必要になってきた。各種工場,港湾,倉庫,配送施設,発電所,鉱山,建設工事など,生産や物流のほとんどあらゆる分野で用途に応じた多種多様の荷役運搬機械が用いられており,その機種,形式,性能およびレイアウトの適否と機械の稼働率は生産や物流のコストに大きな影響を及ぼす。

クレーンコンベヤは荷役運搬機械を代表する機種であるが,それぞれにまた多くの種類があり,用途も多方面にわたる。その他の荷役運搬機械を列記すると,ばら物ヤード用の専用機械(カーダンパースタッカー,リクレーマー,シップローダー),貨物用エレベーター,機械式駐車装置,架空索道,構内用産業車両(フォークリフトトラック,構内運搬車,ショベルローダー,ストラドルキャリアなど)などである。また,簡易荷役用のユニットとしては,ジャッキ,ウィンチ,ホイスト,チェーンブロックなどがあり,これらは上記の各種荷役運搬機械の構成要素として利用されることもある。

 生産や物流の大規模化,高能率化に対応して,複数の荷役運搬機械,土建構築物および総括的な運転制御システムを組み合わせて,全体として荷役運搬の効果を発揮するようにした大がかりな荷役運搬設備が数多く設けられるようになっている。ばら物積出設備,ばら物陸揚げおよび貯蔵設備,海上コンテナーターミナル設備,立体自動倉庫などがその例である。これら荷役運搬設備においては,個々の構成機器だけでなく,設備全体としての信頼性,安全性,無公害性,経済性などが要求される。また,この種の設備は各種の管理情報と組み合わせた総合的なシステム化の方向に進んでおり,例えば立体自動倉庫は保管を中心とした生産管理システムや物流管理システムを形づくるための有効な手段となりつつある。

(1)ばら物荷役運搬 鉱石,石炭,穀類,土砂,塵芥(じんかい)などのばら物bulk materialをばらのまま取り扱う荷役運搬をいう。ばら物取扱用の代表的な機械として,グラブバケット付きの各種クレーン,ベルトコンベヤとその応用機械(スタッカー,リクレーマーなど),流体コンベヤなどがある。また,機動性を特徴とするショベルローダーが汎用(はんよう)機械として普及している。(2)個物荷役運搬 機械や鉄構や鋼材(単独または束ねた形)などのような荷を個々に取り扱う荷役運搬をいい,用途に応じて各種のクレーンが用いられる。(3)ユニットロード荷役運搬 多数の個物をパレットやコンテナーなどの容器を用いて一定の荷姿にまとめて,これを単位として取り扱う荷役運搬をいい,物流・生産合理化の効果的な手段となっている。海上コンテナーターミナルのコンテナークレーンや立体自動倉庫のスタッカークレーンなどがユニットロード取扱いの代表的機種である。個物荷役運搬の特殊ケースであるといえる。(4)かず物荷役運搬 包装された雑貨や製造ラインの部品・半製品のような似通った形態の荷を連続的に取り扱う荷役運搬をいう。各種のコンベヤが用いられる。

人手だけでは扱えない重い物を持ち上げたり,横に動かしたりするために,人類はすでに石器時代から,てこやそりやころといったような道具を利用していた。これらの道具は,古代都市文明期における巨大な石造建造物の工事で,巨石の運搬におおいに活用されたはずである。車輪をつけた運搬具(荷車)や,単一滑車(綱車)を用いた井戸つるべは,前3500-前3000年の発明といわれている。複数の滑車を組み合わせて倍力装置としたいわゆる滑車装置や,綱の引寄せを容易にした手巻ウィンチの原形は,紀元前後には出現し,重い物のつり上げ作業の能率を著しく向上させたであろう。これらの道具や装置はほとんど人や家畜の力を動力源としていた。

 15~16世紀の鉱山用の巻上機や土木工事用のデリックは,その機能や力学的合理性において機械と呼ぶにふさわしいものとなり,動力源としても人畜力に代わって水力(水車)が広く利用された。18~19世紀の産業革命期には蒸気機関を活用し,そして19世紀後半からの電力利用による工業の興隆期には電動機を活用することによって,荷役運搬機械の性能は著しく向上した。

 20世紀の初期,アメリカの自動車産業(フォード社)はコンベヤを利用した流れ作業方式を採り入れて生産性を飛躍的に向上し,産業界に大きなインパクトを与えた。20世紀中ごろからは,重化学工業の大規模化,近代化に伴って,製鉄所におけるアンローダーやレードルクレーン,造船ドックのガントリクレーンなどに見られるように,荷役運搬機械の大容量化,高能率化が著しく促進された。これらは,鋼構造物や機械装置の設計技術の進歩,溶接技術をはじめとする生産技術の進歩および電動機制御技術の進歩に負うところが大きい。

 流通分野においては,国際的なコンテナー化の波により,港湾荷役の様相が一変し,従来の埠頭用引込みクレーンによる雑貨荷役に替わって,大規模なコンテナークレーンを中心としたコンテナー専用埠頭設備が世界各地の港湾に建設された。また高層ラック(棚),スタッカークレーン,コンベヤ類および総括的運転制御システムによって構成された立体自動倉庫が実用化され,流通面,生産面で効果を発揮するようになった。

 荷役運搬機械分野における最近の動向の一つとして,多品種少量生産の無人化システムに対応する信頼性の高い無人搬送機器およびシステムの提供をあげることができよう。
運搬 →荷役
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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