デジタル大辞泉 「パレット」の意味・読み・例文・類語
パレット(palette)
2 ある画家が常用した色彩の種類。また、ある作品に採用された色彩の種類。
3 アプリケーションソフトの操作画面において、各種ツール・操作・命令をアイコンなどでまとめて表示する領域。ドローソフトやフォトレタッチソフトなどで用いられる。操作パレット。フローティングパレット。
美術用語。今日もっとも一般的に用いられる意味としては、絵を描くときに絵の具を出しておいたり、混ぜ合わせたりするために用いる平板状の用具である。絵の具の性質や絵画技法に応じて古くからさまざまな材質や形状のものが使われてきた。水性の絵の具を使う場合にはガラスや陶器、あるいはほうろう引きの金属性のものがよく用いられ、油絵ではクルミやサクラなどの硬材でつくった板が愛用されている。通常これらのパレットには親指を入れる穴があけられ、左手(右利きの場合)に持って使うようにつくられている。長方形か楕円(だえん)形が普通であるが、アーム型とかフランゼン型とよばれる大型変形パレットもあり、アトリエでは、絵の具キャビネットや机の天板がパレットに使われることもある。
エジプト考古学では、書記の筆記用具とか化粧用具として、顔料(がんりょう)・化粧料などを擦りつぶしたり溶いたりするのに使われた粘板岩や片岩の平板をパレットとよぶ。先王朝時代後期には、実用を離れた精巧な浮彫り装飾を施した儀式用のものがつくられるようになった。中央部にあるすり鉢状の凹部がわずかに機能的な役割を示しているだけで、道具としてよりも美術遺品としての価値が高い。よく知られる作例として「ナルメル王のパレット」(カイロ、エジプト博物館)がある。
本来の絵画用具としてのパレットから派生して、比喩(ひゆ)的な意味に使用される場合もある。画家が限定した数の絵の具だけを選んでパレット上に準備した場合、その一群の絵の具の選び方、パレット上での並べ方、また選ばれた一組の絵の具などをパレットとよぶ。さらに、1点の絵画、1人の画家、あるいは一流派などの絵の具の使い方とか色調の整え方を分析整理して形式化したものを意味する。「パレットが明るい(暗い)」というような表現は、このような意味においてである。
[長谷川三郎]
(1)絵具の混色などに用いられる板状の画材。(2)古代エジプトにおいて,孔雀石などの化粧料,顔料をすりつぶすために使われた石板。中央に円いくぼみをもったアラバスターや粘板岩の製品がみられる。先王朝,古王朝期から作られ,大型の片岩や粘板岩製の,歴史的事件や王の征服の記録などを彫り込んだ神殿奉納用のものが,ナカーダ,アムラー,ヒエラコンポリス,ガバレイン等で多数発見されている。これらの中には,王が牡牛やライオンの姿で表され,彼に従う種族を示すハヤブサやサソリなどが敵を倒すありさまや,ヌビア人やリビア人との戦勝を記念し,それらの国々から戦利品として得た牛やロバ等を描いたものもみられる。特に第1王朝ナルメルNarmer王のパレットは,その精巧な浮彫とナルメル王による上エジプトの征服の記録で有名である。一方,書記の筆記具の一つとしての木製のパレット(筆入れの一種)もみられる。長さ20~40cm,幅5~7.5cm,上部に楕円形または円形のインク用の穴を1~2個から十数個あけたものもある。中央に細長く葦筆を納めるための溝をもち(中には筆押さえのための木片やスライドするカバーを付けたものもある),所有者の名前や称号とともに他界の神への祈禱文や,書写の神トートへの賛歌を彫り込んだものもある。象形文字では,このパレットとインク壺,筆をひもで結んだ形を〈書く〉〈書記〉〈なめらか〉等の意に用いている。
執筆者:中山 伸一
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