人格権とは,法的に保護される生活利益のうち,人間の人格と切り離すことのできないものをいう。人格権という概念は,近代の所産であるが,加えて,人権の尊重という理念の高まりにつれて,その範囲は歴史的にしだいに広げられてきている。したがって,その外延は,必ずしも一義的に明確ではない。また,人格的な生活利益を総称して,(一般的)人格権ということもあれば,人間の生活利益を,身体権,自由権,名誉権などに分類して,それぞれを(個別的)人格権と呼ぶこともある。いずれにせよ,これらの利益は,特定の人に専属するものであって,それ自体としては財産取引の対象となりえないという意味で,財産権と区別される。
民法は,生命,身体,自由および名誉の侵害について,それによって生じる財産的損害のほか,非財産的損害についてもその賠償を請求することができる,と定めている(民法710,711条)。これを,とくに慰謝料という。そして,判例・学説は,上にあげたもののほか,自分の氏名や肖像(写真,彫刻など)をみだりにとられたり,使用されたりしない権利を認め(氏名権,肖像権。なお,商標法4条1項8号参照),また,貞操や信用なども人格権に属する,とする。近年問題となる産業公害の多くは,生命,身体の侵害として把握されるが,高速道路や新幹線による騒音,震動,さらには日照妨害も,快適な生活をする利益の侵害として,同じく人格権の侵害と把握されている。
その保護の方法は,一つは損害賠償,すなわち慰謝料の請求であり,いま一つは侵害行為の差止請求である。ただ,上にあげた人格権が侵害されたときに,つねにこのような保護が与えられるとは限らない。それが法的保護に値するかどうかは,被害の程度のほか諸般の事情が総合的に考慮される。生命,身体の直接の侵害についてはあまり問題はないが,騒音や日照妨害については,社会生活上受忍すべき限度内のものかどうかが,個別具体的に判断される。また,慰謝料請求は認められても,差止請求は認められないというケースもありうる。名誉や信用の侵害については,報道の自由や国民の知る権利との利益衡量が要請される。刑法の名誉毀損罪において,(公訴提起以前の)犯罪行為など公共の利害に関することがらで公益のためになされた報道は罪とならない,とされていること(刑法230条の2)などは,民事の慰謝料請求や差止請求のケースでも参考となろう。
執筆者:好美 清光
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
生命・身体・自由・貞操などの人の身体的側面に関する利益、および名誉・信用・氏名・肖像などの人の精神的側面に関する利益を総称して人格権とよぶ。民法は、他人の身体・自由・名誉を害すると、不法行為として損害賠償責任を負うことになる旨を規定する(710条)が、他のもろもろの人格的利益の侵害についても同様のことが妥当する。たとえば、他人の氏名や肖像の無断使用、貞操の侵害、生活妨害なども不法行為となる。また、人格権の侵害に対しては、差止請求権が生じる、とするのが最近の学説および下級審の判例である。
[淡路剛久]
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