電話線利用のADSLまたは光ファイバーによるFTTH(Fiber To The Home)でブロードバンド(広帯域)ネットワークに接続しているユーザーに、デジタル放送のテレビ番組をインターネットの通信規約(IP:Internet Protocol)に従って提供するサービス。電気通信設備を放送に利用することを可能にした「電気通信役務利用放送法」が2002年(平成14)に施行され、2003年3月には同法に基づいたサービスが開始された。なお、IPマルチキャスト放送は、著作権法では「自動公衆送信」扱いであったために、送信内容は著作権者のほかに、レコード製作者、演奏家、歌手、俳優などの著作権隣接者すべての許諾が必要であった。しかし、2007年7月の著作権法の一部改正に伴い、著作権者の許諾のみですむ「有線放送」同様の扱いになったため、デジタル放送の同時再送信(放送)が容易になった。
マルチキャストとはデータを必要とする複数の端末だけに送信する方式で、すべてに送信するブロードバンドに比べてネットワークの負担は少なく効率は良い。また、既存のIP広帯域ネットワークが使用できるので有線放送より安価に展開でき、テレビ、携帯電話、PC接続などのすべてと統合できる利点もある。
放送センターからの全番組はIP局内に配備されたIPマルチキャスト装置につねに配信され、最寄りのIP局は、加入しているユーザーからの要求番組のみを送信する。送信は、情報を時分割したIPパケットを一つずつ転送し、パケットを受け取ったルーター(中継・分配器)がコピーして要求に応えるとともに、元のパケットを他のルーターに転送することを繰り返すマルチキャスト方式を用いている。これにより多数のテレビ端末への番組の同時配信を可能にしている。ユーザーは受信機上のセットトップボックスを経て受像する。
IPマルチキャスト放送は、諸外国で商用化が進んでいるが、日本ではすでに数社が行っており、地上デジタル放送の全国実施後に難視聴地域をも補完できると期待されている。
[岩田倫典]
『トーマス・A・モーファー著、楠本博之訳『IPマルチキャスト入門』(2001・共立出版)』▽『ボー・ウィリアムソン著、コムサス訳、シスコシステムズ監修『IPマルチキャストネットワーク開発ガイド』(2001・ソフトバンクパブリッシング)』▽『デジタル放送研究会著『図解 デジタル放送の技術とサービス』(2006・技術評論社)』▽『中村伊知哉監修、近藤静雄著『手にとるようにウェブ世界がわかる本』(2006・かんき出版)』
(隈元信一 朝日新聞記者 / 2008年)
(桜井勉 日本産業研究所代表 / 2008年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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