日本大百科全書(ニッポニカ) 「藤浩志」の意味・わかりやすい解説
藤浩志
ふじひろし
(1960― )
美術家。鹿児島県生まれ。1979年(昭和54)京都市立芸術大学美術学部工芸科染織専攻に入学し、85年同大学院美術研究科修了。83年に京都三条・鴨川周辺の公共空間を使ったアート・プロジェクト「Art Net Work '83――様々な相互作用」を企画運営し、『鴨川泳いだこいのぼり』などを発表する。84年には東京芸術大学と京都市立芸術大学の交流展「フジヤマゲイシャ」を企画運営し、作家として参加する。
86年から2年間、青年海外協力隊員としてパプア・ニューギニアで国立芸術大学デザイン科講師を務め、88年にパプア・ニューギニア国立博物館で、同地で目にした「野豚を追うヤセ犬」をモチーフにしたインスタレーション『戦闘機をひくヤセ犬の群像』を発表する。帰国後、取り壊された家の柱で制作する彫刻「ヤセ犬のシリーズ」に着手し96年(平成8)に101匹目を完成させた。89年に無利子で米を貸し出すシステムをイメージ化した『世界食料銀行構想』(ハラミュージアムアーク、群馬県渋川市)を発表し、また91年に藤の給料1か月分の金額に相当する1トンの米を敷き詰めた『お米の砂漠、犬のおしっこ』(水戸芸術館)を発表する。翌92年『2025カエルの池シンポジウム』(スパイラルガーデン、東京)で米はカエルの形をしたおにぎりに姿を変え、樹脂加工して使用され、同作は第2回ジャパン・アート・スカラシップ・グランプリを受賞する。「カエルのシリーズ」は様態を変えて95年まで継続した。
その後『カイトプロジェクト演習』(1996、広島県甲奴(こうぬ)郡総領灰塚地区ほか)をきっかけに、さまざまな参加者が自発的に表現を展開できる状況をつくる行為そのものをアート活動とする「OS(オペーレーション・システム)作品」を目指すようになり、97年にスタジオ「Studio Farm」を設立。「地域、適正技術、協力」をテーマとした表現活動を探求するなか「Plant Demonstration」を組織し、ワークショップやパフォーマンスを展開する。
同年には「家庭内ゴミゼロエミッション」プロジェクトを開始し、3年間コレクションしたビニール・プラスチック素材を展示した個展「Vinyl Plastics Collection」(1999、箱根・彫刻の森美術館)を行ったり、小学生とのワークショップで映像作品『ビニプラショー』(2000、岐阜県上石津町)を制作している。
また99年に福岡市でオーストラリアのアーティスト・グループ、ウォッヘンクラウズールの社会問題に深くコミットする活動に参加し、2000年には地域通貨の概念を取り入れた物々交換プロジェクト「かえっこショップ」を立ち上げ国内外で精力的にデモンストレーションを展開するなど、新しい価値観を提案している。
そのほかにも、一度用途を失ったものを再構成し新しい力をつくり出す、システムRSPS(Re Structure Power System)と、その活動をするためのオルタナティブ・スペース(作品を収蔵する美術館でも作品を売る画廊でもない作品発表の空間)「RS 75m Galley」構想の展開をはじめた。さらに鹿児島の実家を改装してオープンし、89年から延べ約26万人の人々に利用され96年に閉じた「ギャラリーカフェ“Eスペイス”」の再開プロジェクト「e-space garden」も行う。
著書に『お米のカエル物語』(1995)、地方出版文化功労賞次席を受賞した絵本『たけのはし』(1996)などがある。
[森 司]
『『お米のカエル物語』(1995・アートダイジェスト)』▽『こばやしたかこ文、ふじひろし絵『たけのはし――甲突川五石橋』(1996・南方新社)』▽『「藤浩志 OSのアート」(『美術手帖』1999年12月号所収・美術出版社)』