改訂新版 世界大百科事典 「藪原検校」の意味・わかりやすい解説
藪原検校 (やぶはらけんぎょう)
講談・歌舞伎作品中の盲人悪徒の名。おそらく何らかのモデルが実在したものと思われるが不明。初世蓁々(しんしん)斎桃葉が,2世古今亭志ん生の人情噺から講談化し,《やまと新聞》付録として1893年3~6月に4回にわけて《藪原検校》の題の下に出版。これにもとづき1900年1月,東京歌舞伎座で《成田道初音藪原(なりたみちはつねのやぶはら)》として3世河竹新七が脚色初演,主役の藪原検校と大工政五郎に5世尾上菊五郎が扮し好評だったが,作品としては筋が分裂し生煮えとの不評をこうむった。内容は初世藪原検校の弟子で按摩の杉の市が,箱根山中で香具師を鍼(はり)で殺し金を強奪,また師匠をも殺してその跡をつぎ,藪原検校を名のって金貸しを行い,師匠の奥方と姦通するなどの悪事を働く。湧谷の倉吉にゆすられ,手下に命じて倉吉を殺しにやるが,やがて訴人によって縛につく。脇筋として大工政五郎が2役で活躍する。また宇野信夫作《沖津浪闇不知火(おきつなみやみのしらぬひ)-不知火検校》(1960年2月歌舞伎座初演)は本作を換骨奪胎して成功,主演の17世中村勘三郎も憎々しいなかに愛嬌のある演技で好演。終幕で,捕縛された検校が群衆に石を投げつけられ血まみれになりつつ,〈……お前達はちっぽけな胆っ玉に生まれついたばっかりに己のような真似ができず,せいぜい祭りを楽しむのが関の山……〉と嘲笑する個所に〈悪の楽しさ〉をネガティブに表出する作者の意図がこめられている。また井上ひさしにも戯曲《藪原検校》があり,舞台化も成功した。
執筆者:小池 章太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報