サンスクリットのākāśa-garbhaの漢訳名。この名称の意義は《大日経疏》によると,虚空が何ものによっても破壊することができないほどすべてにまさっているように,優れた無量の法宝を所蔵し,それらを自在に用いて衆生に幸福を授ける菩薩であることに由来する。虚空蔵菩薩は《大方等大集経》第十四の虚空蔵品では東方大荘厳世界の一つ,宝荘厳仏の所にいるとされるが,《虚空蔵菩薩経》では西方一切香集依世界の勝鬘(しようまん)敷蔵仏の所にいると説かれていて一致を見ない。しかし,両経はともに,虚空蔵菩薩が自分のいる世界からわれわれが住む娑婆(しやば)世界の釈尊のもとに数十億の菩薩とともに来訪して,衆生の諸願を満足させ福徳を得させる諸種の法を説いたことを述べている。これにより同菩薩が福徳をつかさどる菩薩として早くから考えられていたことがわかる。この菩薩を本尊とする修法には虚空蔵菩薩法や虚空蔵求聞持(ぐもんじ)法などがある。
形像は,両界曼荼羅における胎蔵界曼荼羅虚空蔵院の像と同釈迦院の像,金剛界曼荼羅賢劫(けんごう)十六尊の中の像,《大日経疏》《八大菩薩曼荼羅経》《虚空蔵菩薩求聞持法》その他の諸経に述べられる像が知られるが,それらは左右の手の持物や印相が,それぞれ少しずつ違っている。現在残されている作例は,両界曼荼羅の中の像を除くと,求聞持法の本尊像である。胎蔵界虚空蔵院の像が右手に剣を持ち,左手を腰の脇に置いて蓮華上に宝珠を載せた蓮茎を持つ座像であるのに対し,求聞持法の本尊は左手の持物と位置は虚空蔵院の像と同じだが,右手は何も持たず与願印とし,手のひらを外に向けて右膝の前に下げる座像で,宝冠には五仏が表される。求聞持法像は画像で,東京国立博物館像(国宝),神奈川円覚寺像,大阪細見家像が著名である。彫像には奈良の法輪寺木造立像(国宝),同じく額安寺乾漆造半跏像があり,求聞持法像とは異なる形像に造られている。
執筆者:関口 正之
虚空蔵信仰は奈良時代に日本に伝えられ,僧侶のあいだでは一種の記憶法である虚空蔵求聞持法が行われ,空海による室戸岬での修法は著名である。求聞持法の満願の日には明星が口から入り記憶力が増進するという。虚空蔵は福徳,智恵増進,災害消除の性格が教典,修法にみられ,民間でもこれに沿った信仰が展開した。丑寅年生れの人の守本尊としての信仰は全国的だが,とくに陸前地方ではケダイ神に結びついて強くいわれる。京都市法輪寺,茨城県東海村虚空蔵堂,福島県柳津町虚空蔵堂などの虚空蔵関係寺堂では智恵授けとして,成女戒,成人戒に由来する十三参りの行事が行われている。漆工職人のあいだではこの菩薩をまつる虚空蔵講が営まれている。漆器の下地の木屎(こくそ)に由来を求めているが,この信仰の伝播に秦氏が関係したことも考慮しなければならない。同じく蚕糞(こくそ)から蚕神に,穀蔵の語呂合せから作神信仰になっている例は多い。地蔵との対応から山中他界観に結びつき,室町期までには虚空蔵菩薩は十三仏中の最終仏,あの世への導者として定着していく。また,栃木県下に数多く分布する星宮神社はその本地を虚空蔵菩薩と説くなど,星とこの信仰の結びつきも注目される。紀州淡島(あわしま)神社の本地も虚空蔵菩薩とされ,郡山市の子安虚空蔵はじめ産神としての信仰もみられる。虚空蔵の使わしめをウナギとして,これをまつる村や家,また信ずる人はウナギを食べない。
執筆者:佐野 賢治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…不動明王は,大日如来の使者として,密教系寺院や,修験道の守護神としてまつられたが,毎月28日が縁日,初不動は参詣者が多い。虚空蔵は,毎月13日が縁日で,4月13日(旧3月13日)を十三参りと称し,13歳の女子の参詣が多い。これは民俗的な成女式と結びついたものらしい。…
…13歳の祝いの行事の一つ。京都市法輪寺,茨城県東海村虚空蔵堂,福島県柳津(やないづ)町円蔵寺など,おもに近畿,東北地方南部の虚空蔵菩薩に13歳になった男女が縁日である旧暦3月13日を中心に厄落し,開運,知恵授けのために詣でる行事。13歳は干支の2順目にあたり,とくに女子では初潮とも関連して最初の厄年になっている地方も多い。…
※「虚空蔵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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