娑婆(読み)シャバ

デジタル大辞泉 「娑婆」の意味・読み・例文・類語

しゃば【×娑婆】

《〈梵〉sahāの音写忍土堪忍土などと訳す》
仏語釈迦衆生しゅじょうを救い教化する、この世界煩悩ぼんのう苦しみの多いこの世。現世娑婆世界
刑務所兵営などにいる人たちが、外の自由な世界をさしていう語。「娑婆空気」「娑婆に出る」
[類語]世間この世うつし世現世地上人界下界此岸苦界肉界人間界世界

さ‐ば【×娑婆】

しゃば(娑婆)」に同じ。
「―のほかの岸(=彼岸)に至りてとくあひ見む」〈・若菜下〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「娑婆」の意味・読み・例文・類語

しゃば【娑婆】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( [梵語] sahā の音訳。堪忍、能忍などと訳す ) 仏語。さまざまの煩悩(ぼんのう)から脱することのできない衆生が、苦しみに堪えて生きているところ。釈迦如来が衆生を救い、教化する世界。現世。俗世界。裟婆世界。娑婆界。娑界。娑婆道。
    1. [初出の実例]「従娑婆以下、列色界天」(出典:法華義疏(7C前)一)
    2. 「殊に御身はしゃばと冥途に親三人」(出典:浄瑠璃・国性爺合戦(1715)三)
    3. [その他の文献]〔法華経‐化城喩品〕
  3. 自由を束縛された軍隊、刑務所(牢獄)、遊郭などの内にいる人々から見た、外の一般人の自由な世界。また、のびのびとした気ままな世界。
    1. [初出の実例]「されば籠内をば地獄、外をしゃばと罪人いふ」(出典:慶長見聞集(1614)六)
    2. 「新橋へ着いた時は、漸く娑婆へ出た様な気がした」(出典:坊っちゃん(1906)〈夏目漱石〉一一)

さ‐ば【娑婆】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「さ」は「しゃ」の直音表記 ) この世。現世。しゃば。
    1. [初出の実例]「天女と申すとも、くだりましなむ。いはんや、さばのひとは、こくわうときこゆとも、おもむき給なんをや」(出典:宇津保物語(970‐999頃)藤原の君)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「娑婆」の意味・わかりやすい解説

娑婆 (しゃば)

原語はサンスクリットのサハーsahāとされ,娑訶(しやか),索訶(さくか)とも訳される。サハーは,本来大地を意味するが,釈尊がこの大地の上に生まれたことから〈釈尊の世界〉〈この世〉の意味になったと考えられる。それゆえ,娑婆は正しくは娑婆世界Sahā-lokadhātuである。一方,これとは別に,堪忍(たんにん),能忍とも,雑会(ぞうえ)とも訳されている。前2者は原語のサハーを〈堪えるsah〉という動詞からつくられた語と解したためであり,後者はサハーとはまったく別の〈集会sabhā〉が原語であると解したためである。このように,娑婆はもともと原語の理解や翻訳語が異なっていたため,中国仏教ではさらにさまざまな意味に転化して用いられている。また,もっともひろく〈堪忍〉の意味に用いられ,忍界(にんかい),忍土(にんど)などとも呼ばれ,この世は人間があらゆる悪事や苦しみを耐えしのばねばならない迷いの世界,つまりいとうべき,捨てさるべき世界と考えられた。しかし,一方,悟りの立場から見ればこの迷いの世界はそのまま仏の悟りの世界にほかならないとして,禅宗では〈娑婆即寂光土しやばそくじやくこうど)〉といい,迷界のほかに仏界なしと主張した。また《法華経》には,釈迦仏はこの世の霊鷲山(りようじゆせん)上において《法華経》を説いたとしているので,その説法の場所を〈霊山浄土(りようぜんじようど)〉と呼ぶこともある。この浄土は娑婆世界の中に存在するわけであるから,娑婆は釈迦仏の仏国土(ぶつこくど)とも解しうる。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

普及版 字通 「娑婆」の読み・字形・画数・意味

【娑婆】さば

舞うさま。宋・王禹〔后土の瓊花、二首、二〕詩 忽ち似たり、天深(しんかん)の底 老(かか)げて、白きこと娑婆たり

字通「娑」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「娑婆」の意味・わかりやすい解説

娑婆
しゃば

大乗仏典において、釈迦(しゃか)の教化する世界、すなわち、われわれ有情(うじょう)の住む世界をいう。サンスクリット語サバーsabhāの音写。サンスクリット語の原義は明確でないが、まず梵天(ぼんてん)の称号の一つとしてサバーパティsabhāpatiあるいはサハーパティsahāpatiという語ができ、それからサバーまたはサハーという世界の名が分離したものと推定され、この梵天の支配する国土の意から、釈迦の教化する世界をさすものに転じたと考えられる。大乗仏教では、彼岸(ひがん)の浄土に対して、此岸(しがん)の有情の世界を娑婆というのであるから、本来娑婆世界は三千世界よりなり、有情、すなわち天、人、地獄、餓鬼(がき)、畜生(ちくしょう)、阿修羅(あしゅら)の六道を含むものである。しかし、わが国では、人間社会のみを娑婆といい、極楽(ごくらく)や地獄などと区別している。また、転じて、軍隊、牢獄(ろうごく)、遊廓(ゆうかく)など自由を拘束されたところからみて、外の自由な社会をもいう。

[高橋 壯]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「娑婆」の意味・わかりやすい解説

娑婆【しゃば】

サンスクリット,サハーの音写。三千世界の総称で娑婆世界ともいい,この世のこと。この世に生きる衆生は三毒諸煩悩(ぼんのう)を忍受するから忍界・忍土などとも呼ばれる。
→関連項目如来

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

防府市歴史用語集 「娑婆」の解説

娑婆

 古墳時代の防府周辺の地名です。これ以外にも別の漢字が当てられる場合もあります。

出典 ほうふWeb歴史館防府市歴史用語集について 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android