翻訳|arachnoid
脳と脊髄をおおう髄膜の一つ。3枚ある髄膜のうち,外層の硬膜と内層の軟膜の中間にあるのが〈くも膜〉である。くも膜は血管を伴わない薄い膜であるが,軟膜はくも膜柱という細い繊維状の梁柱で接していて,それがクモの糸状に見えるので,このような名称で呼ばれるようになった。軟膜との間の腔所をくも膜下腔subarachnoid spaceといい,そこは髄液(脳脊髄液)で満たされている。したがって,くも膜下腔は脳室と連続している。脳のくも膜は脊髄のくも膜に連続しており,最下端では馬尾を包んでいる。また,くも膜下腔は脳や脊髄に出入する血管の周囲腔とも接続している。くも膜下腔は大脳半球の脳溝の部分では広く,脳回の頂では狭くなり,ところによって,くも膜と軟膜が接着して軟くも膜をつくる。脳底部では軟膜が脳のくぼみに沿って落ち込み,くも膜下腔は広い槽を形成している。この槽をくも膜下槽と呼び,代表的なものとして,小脳と延髄の間の小脳延髄槽,大脳外側窩(か)の大脳外側槽,視神経交叉(こうさ)周囲の交叉槽,左右の大脳脚の間にまたがる脚間槽,脳梁に沿う脳梁槽などがある。
上矢状洞など主要な静脈洞の内壁にはイチゴ状の小体があり,くも膜顆粒arachnoid granulationと呼ばれる。発見者のイタリアの医師パッキオニAntonio Pacchioni(1665-1726)の名を冠してパッキオニ小体またはパッキオニ腺ともいわれる。この小体の壁は,くも膜と静脈洞内皮のみからなり,くも膜下腔の髄液はここから血流に入るといわれている。くも膜顆粒は,7歳以後にみられ,年齢とともに増加する。なお,くも膜下腔への出血がくも膜下出血である。
→くも膜下出血
執筆者:和気 健二郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…脳ではこの2枚が大部分の場所で融合しているが,わずかのところで内外の2枚に分かれてその間に静脈洞があったり,神経の幹が含まれたりする。第2の膜をくも膜arachnoideaといい,第3すなわち最も内側の膜を柔膜pia materという。この二つはいずれも薄い膜で,両者は多数の結合組織束によって相連なっており,合わせて軟膜leptomeninxと呼ばれる。…
…いわゆる脳膜炎のことで,脳脊髄膜炎ともいう。髄膜の炎症は硬膜を侵す硬膜炎pachymeningitisとくも膜,軟膜を侵す軟膜炎leptomeningitisに大別されるが,後者が髄膜の炎症の大部分を占め,通常単に髄膜炎と呼ばれる。病因としては細菌,真菌,ウイルスなど多数の起炎菌が知られている。…
※「蜘蛛膜」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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