脳・脊髄表面を走る動・静脈からくも膜下腔(軟膜とくも膜との間の間隙)に起こった出血をいう。くも膜下腔は髄液で満たされているので,この場合出血は局所にとどまらず,脳・脊髄の髄液全体に拡散する。くも膜下出血の原因としては,頭部外傷,脳動脈瘤,脳動静脈奇形などがある。全脳血管障害の8%をくも膜下出血が占め,その約70%が脳動脈瘤の破裂によるものである。未破裂のものも含めると,脳動脈瘤は全人口の1%ほどに見いだされ,発生頻度が高い。脳動脈瘤破裂に伴い,強い頭痛,嘔吐,意識消失などの症状が発生する。かつて経験したことのないような激しい頭痛が突然生じた場合には,まずくも膜下出血を疑う。診断は,腰椎穿刺(せんし),CTスキャン,脳血管撮影などによって確定される。くも膜下出血の第1回目の発作により10~15%が死亡するが,その後も再出血を繰り返すことが多く,保存的治療では数年の間に全体の1/3が死亡する。動脈瘤の再出血を防ぐ目的で開頭手術が行われる。再出血の危険性は初回発作後の1~2週間に最も高いので,できるだけ早期に手術的治療を受けることが望ましい。意識状態,全身状態がよい場合は,手術成績はきわめて良好であり,90%近くが社会復帰できる。しかし,出血による脳損傷の程度が強く,意識障害その他の神経症状が遷延する場合は,手術的治療の有無にかかわらず,死亡率が高くなる。脳動脈瘤破裂は中・高年者に多いが,比較的若年者に生じるくも膜下出血は脳動静脈奇形によることが多い。脳動静脈奇形は脳の動静脈間に異常な吻合(ふんごう)が存在する先天的な病気であり,てんかん,出血(くも膜下出血,脳内出血)の原因となる。出血を起こした脳動静脈奇形に対しては,病巣部の全摘出を目的とした手術的治療が行われる。
→脳内出血
執筆者:浅野 孝雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…また,中風(ちゆうふう∥ちゆうぶう)または中気という言葉が脳卒中と同義に用いられることもあるが,一般には,卒中発作後,後遺症として半身不随(片麻痺)などの運動麻痺を残した状態をいうことが多い。
[原因疾患]
(1)脳出血(脳溢血(のういつけつ)),(2)脳梗塞(のうこうそく),(3)くも膜下出血,(4)高血圧性脳症などがある。脳出血は脳における急激な出血をいい,脳梗塞は脳動脈の狭窄や閉塞のために,その動脈に栄養される領域の脳組織が壊死におちいったものである。…
※「蜘蛛膜下出血」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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