血小板減少症の原因と分類

内科学 第10版 の解説

血小板減少症の原因と分類(血小板/凝固系の疾患総論)

(1)
血小板減少症(thrombocytopenia)
の原因と分類
定義・概念
 止血に関与する4大因子は,①血管(血管内皮細胞と内皮下組織),②血小板,③血液凝固因子,④線溶因子である.このうち血小板が原因となって起きる止血異常には,血小板減少症と血小板機能異常症がある.
 血小板減少症は末梢血中の血小板数が正常より低値を示す病態を指すが,基準値以下でも直ちに血小板減少症とはいい難く,通常は血小板数が10万/μL以下を指す.一般には原因のいかんにかかわらず血小板減少により出血傾向をきたすが,病態によっては血栓症状を伴うもの(抗リン脂質抗体症候群ヘパリン惹起血小板減少症(HIT),血栓性血小板減少性紫斑病/溶血性尿毒症症候群(TTP/HUS),播種性血管内凝固症(DIC))もある.血小板減少による症状は一般に皮膚の点状出血,斑状出血が多いが,重症では粘膜出血をきたす.血友病などの凝固障害でしばしば観察される関節出血や筋肉内出血は血小板減少症では通常みられない.血小板数については,機能異常がなければ通常10万/μL以上は正常の止血能を有すると考えてよい.5~10万/μLでも出血症状は少ないが外傷や手術時に出血量の増大がみられる.5万/μL以下,特に2~3万 μL以下では紫斑,歯肉出血,鼻出血などがしばしば観察される.重症では尿路出血,消化管出血,脳出血をきたすことがある.日常臨床では口腔内出血(血腫)がみられる場合には注意を要する.
病態生理
 ①骨髄での巨核球-血小板の産生低下,②末梢での消費や破壊亢進,③分布異常の3つがおもな病態である(表14-11-1).血小板産生の低下には先天性と後天性があるが,前者は比較的まれなものが多く,後者に遭遇する機会が多い.再生不良性貧血,白血病,骨髄線維症,癌の浸潤,抗癌薬治療,放射線障害など,骨髄での巨核球そのものの産生が障害されている場合に加え,巨核球の成熟障害を呈するMDSやビタミンB12欠乏,葉酸欠乏がしばしばみられる.末梢での破壊亢進,消費亢進については免疫学的機序,非免疫学的機序ともにしばしば経験される.前者では特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura:ITP)が代表的病態である【⇨14-11-3)】.ヘパリン惹起血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia:HIT)は特異な病態で,ときに致命的であり,以前考えられていたよりも高頻度であることが最近明らかにされた(下記).また血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)は最近まで原因不明であったが,von Willebrand因子切断酵素(ADAMTS13)に対する自己抗体が大部分の原因であることが明らかにされた.一方,非免疫学的機序で起こるものとして大腸菌ベロ毒素などで惹起される溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS),播種性血管内凝固症(DIC)がよく知られている.このほか妊娠,HELLP症候群,感染症,重症火傷,人工弁,人工血管,Kasabach-Merrit症候群など原因はさまざまである.多量の出血の際,赤血球輸血による希釈で血小板数が低下することがある.一方,末梢での分布異常では血小板の脾臓へのプーリングが原因であり,通常ITPにみられるような血小板寿命の著明な短縮は認めない.代表的な病態は肝硬変など門脈圧亢進,脾機能亢進であり,ときに脾腫瘍,悪性リンパ腫に合併することがある.
鑑別診断
 血小板減少患者に遭遇したら図14-11-1に従って鑑別診断を行う.まず偽性血小板減少症を除外する.これは採血後に試験管内で血小板が凝集する現象で,EDTA採血でみられることが多い.採血から測定までの時間に依存して凝集が進行する.鑑別には塗末標本で血小板数を確認するかクエン酸加採血で血小板数を算定する.病歴上,先天性が疑われる場合は塗抹標本で血小板のサイズを確認する.後天性であり,明らかなDIC,HITやTTP/HUSが除外されれば骨髄穿刺を行う.巨核球以外に異常がなく,巨核球数が正常または増加のとき,消費または破壊の亢進あるいは分布の異常と診断される.薬剤性血小板減少症は高頻度でみられるので薬剤服用歴の聴取は最も重要である.
血小板減少症患者への対応
 前述のように血小板数については,機能異常がなければ通常10万/μL以上は正常の止血能を有すると考える.5~10万/μLでは検査値の異常(出血時間の延長)がみられるが,出血症状を呈することはまれである.しかし,外傷や手術時に出血量の増大がみられる.5万/μL以下,特に2~3万/μL以下では紫斑,歯肉出血,鼻出血などがしばしば観察される.紫斑,皮下出血は比較的見つけやすいが,口腔内出血斑に注意したい.口腔内粘膜の出血斑はときに重篤な頭蓋内出血などに先行することがあるので,これを見つけた場合は直ちに対処すべきである.また自然出血がなくても軽度の刺激で出血をきたすことが多いのでベッドサイドでの打撲などを防ぐよう注意する.血小板減少症の外来患者の場合,強い運動は控えるよう指導する.また採血,点滴部位からの出血はしばしば経験される.出血時間は血小板数が10万/μL以下では延長することが明らかであるため,検査は施行しない. 外科的処置への対応:通常,手術に必要な血小板数はほかのリスクファクターの有無によっても異なるが,低リスク手術(抜歯や皮膚の小手術など)で5万/μL以上,中リスク手術(腹部の一般手術など)で7万~8万/μL以上,高リスク手術(脳外科手術など)で10万/μL以上を目安にする.
薬剤による血小板減少
 薬剤性血小板減少症には,骨髄における血小板産生抑制によるもの(中毒性機序)と,末梢での消費ないし破壊亢進によるもの(免疫性機序)がある.抗腫瘍薬など骨髄抑制作用のある薬物を除き,薬剤起因性の血小板減少は多くの場合,免疫学的機構が関係している.特徴は突然血小板減少が出現することであり薬剤量に依存しない.網内系による血小板の捕獲が機序として考えられている.薬剤性の血小板減少症の診断に重要なことは,まずその存在を疑うこと,そして服薬歴を詳しく調べることである.ときに服薬から数週~数カ月経過して血小板減少が出現することがあり,これは特に初回投与の場合が多い.一方,以前服薬歴があり薬剤にすでに感作されている場合は突然血小板減少が出現する.一般に薬剤性血小板減少症は重症で,出血傾向が出現する.中止により血小板数は回復し,再投与しないかぎり再び血小板減少はみられないはずであるが,ときには中止しても数週〜数カ月間血小板減少が続くことがある.この際には血小板に対する自己抗体の出現が疑われる.治療は原因薬剤の中止である.出血が重症の場合,血小板輸血が行われる.輸血された血小板は抗体の存在により短時間で破壊されると考えられるが,臨床的には有効なことが多い.また網内系によるクリアランスをブロックする目的でガンマグロブリンの大量療法も有効である.
 薬剤性血小板減少症の特殊な病態として抗腫瘍薬マイトマイシンCによるthrombotic microangiopathy (TMA)や,チエノピリジン系の抗血小板薬(特にチクロピジン)による血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)が知られている.後者では薬剤開始数週以内に突然血小板が減少し,死亡することもあるので注意が必要である.ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)は,ヘパリンの重大な副作用であるにもかかわらず,わが国ではあまり注目されていないのが現状である.HITは非免疫機序で発生するⅠ型と,ヘパリン依存性の自己抗体が出現するⅡ型に分類されている.HITのⅠ型は,ヘパリン投与2~3日後に10~30%の血小板減少が起こる.Ⅰ型の発生機序は,ヘパリン自体の物理生物的特性による一過性の血小板減少である.これに対して,免疫機序で発症するⅡ型のHITの特徴は,ヘパリン投与5~14日後(平均10日位)に発症し,ヘパリンを継続する限り血小板減少は進行する.血小板減少に伴い動静脈血栓が合併することがあり,ときに致命的である.[村田 満]
■文献
村田 満:血小板減少症.血液の事典(平井久丸,押味和夫,他編),pp351-354,朝倉書店,東京,2004.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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