日本大百科全書(ニッポニカ) 「抗リン脂質抗体症候群」の意味・わかりやすい解説
抗リン脂質抗体症候群
こうりんししつこうたいしょうこうぐん
antiphospholipid syndrome
リン脂質に対する自己抗体(抗リン脂質抗体)が、生体内で血が固まるのを防ぐ働き(抗凝固活性)を阻害してしまうことによって、動脈や静脈に血栓を生じる自己免疫疾患。APSと略す。リン脂質は、ヒトや動植物および微生物など生体の生体膜を構成するおもな成分で、抗カルジオリピン抗体やループスアンチコアグラント(抗凝血素)などの種類がある。APSは、このリン脂質に対する抗体が血中にみいだされることで診断され、血小板減少を伴い、血が固まりやすくなって動静脈血栓症を呈する。またこの抗体の存在は自然流産を繰り返す習慣性流産とも深くかかわっており、ほかに動脈硬化の徴候のない若年者にみられる脳梗塞の原因とも考えられている。また血栓は下肢静脈に生じることが多く、下肢の腫脹(しゅちょう)と疼痛(とうつう)を伴うとともに再発例も多くみられる。さらにAPSは全身性エリテマトーデス(SLE)に合併することが多く、SLE患者のおよそ50%にAPSが認められる。APSのなかで致死率の高い劇症型抗リン脂質抗体症候群もSLEと合併する比率が高い。治療は血小板減少に対して抗血小板療法、急性期の血栓症に対して抗凝固療法が行われるほか、副腎皮質ホルモン剤や免疫抑制剤が用いられる。さらに抗体を除去する目的で血漿(けっしょう)交換療法なども選択肢となる。
[編集部]