日本大百科全書(ニッポニカ) 「被布」の意味・わかりやすい解説
被布
ひふ
和服防寒用の外被の一種で、室内、室外ともに用いられる。形は羽織に似ているが、衿(えり)は丸い小衿をつけ背のほうへ折り返して着る。前身頃(みごろ)には竪衿(たてえり)をつけ、竪衿を重ねて着用する。これは現在の道行(みちゆき)コートと同じである。竪衿の上部胸元に総角(あげまき)(梅結び、菊結び)に房をつけた飾りの組紐(くみひも)を縫いつけ、これでとめる。脇には羽織と同様に襠(まち)がついている。布地は綸子(りんず)、縮緬(ちりめん)などを用いて袷(あわせ)仕立てまたは綿入れ仕立てにする。袖丈(そでたけ)、身丈は羽織に準じる。初めは披風と書き、公家(くげ)の間で用いられた外衣であった。しかしこれは今日いう被布とは形が異なっている。被布はもともと男性の茶人や俳人が享保(きょうほう)(1716~36)ごろ着用していたが、文政(ぶんせい)(1818~30)のころから婦人も着用するようになった。しかし大名、旗本などの後家や隠居のみに多く用いられ、一般の婦人がこれを着用することはまれであった。幕末には武家の女性の平常用に、やがて一般の婦女子にも用いられるようになり、明治・大正まで続いた。現在では外被として道行コートが用いられ、被布は着用されなくなった。しかし女児用には袖なし綿入れまたは袷に仕立てたものがある。3歳の女児の祝い着には、緋(ひ)の綸子、紋羽二重(もんはぶたえ)などで仕立てたものが用いられる。
[藤本やす]