視覚障害(読み)シカクショウガイ(その他表記)visual impairment

デジタル大辞泉 「視覚障害」の意味・読み・例文・類語

しかく‐しょうがい〔‐シヤウガイ〕【視覚障害】

視力が極めて弱いこと。または、全く見えないこと。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

最新 心理学事典 「視覚障害」の解説

しかくしょうがい
視覚障害
visual impairment

視覚障害は,視覚器の健康状態の変化(病気,変調傷害など)に伴う,①眼鏡などの光学的矯正によっても回復不可能で永続的な視機能(視力,視野,色覚,光覚,眼球運動,調節,両眼視など)の低下,②コミュニケーションや歩行,身辺処理などの活動制限,③社会生活における参加の制約の状態の総称である。これらの状態は背景因子(環境因子と個人因子)と相互作用し,その範囲と程度は変化する。教育的には学校教育法施行令第22条の3に,福祉的には身体障害者福祉法別表に細かな基準がある。世界保健機関(WHO)の2010年の『国際疾病分類』(ICD-10)では,良い方の眼の矯正視力が6/18(0.3)未満が視覚障害である。

【視覚障害の原因と実態】 特別支援学校(視覚障害)の2010年度在籍者3345人の視覚障害原因causes of visual impairmentは先天素因が最も多く,約5割を占める。上位5疾患は未熟児網膜症,網膜色素変性,視神経萎縮,小眼球・虹彩欠損,緑内障である。2006年の厚生労働省の身体障害児・者実態調査では,18歳未満の視覚障害児(在宅)は約4900人,18歳以上の視覚障害者(在宅)は約31万人で,それぞれ人口1万人当たり約2人と約24人に相当する。2009年に日本眼科医会はアメリカの定義〈矯正視力20/40(0.5)未満〉に基づく視覚障害者数を約164万人と推計し,そのうち盲〈矯正視力20/200(0.1)以下〉が18万8000人,ロービジョン〈矯正視力20/200(0.1)から20/40(0.5)未満〉が144万9000人で,60歳以上が約7割,70歳以上が約半数を占める。上位5疾患は緑内障,糖尿病網膜症変性近視加齢黄斑変性白内障である。

【視覚障害の分類】 視覚障害は,盲blindnessとロービジョンlow visionに分類される。盲は,視覚以外の感覚を用いて日常生活や社会生活,学習活動を行なう状態であり,ロービジョンは,視覚による生活や活動が可能であるが不自由な状態である。教育分野では,ロービジョンを弱視partial sightとよぶ。WHOの2010年のICD-10では,盲は良い方の眼の矯正視力が20/400(0.05)未満もしくは視野狭窄による視野半径10°以内であり,ロービジョンは良い方の眼の矯正視力が20/400(0.05)以上,6/18(0.3)未満である。

 ロービジョンの見え方は一様ではない。2005年に香川邦生はロービジョンの見え方を,①ピンボケ状態(屈折異常),②混濁状態(透光体混濁),③暗幕不良状態(ぶどう膜欠損や色素欠損),④照明不良状態(夜盲や昼盲),⑤痙縮性の不随意眼球運動(眼振),⑥視野の制限状態(視野狭窄や中心暗点)に分類している。

 心理学的な観点から1974年に佐藤泰正は,視覚障害者を全盲者totally blindと弱視者partially sightedに分類した。全盲者は視力がまったくない者であり,弱視者はおぼろげに指の数がわかる程度(指数弁)から矯正視力0.3未満の者である。全盲者はさらに,視覚経験の記憶である視覚表象visual representationの有無により後期全盲者late blindと早期全盲者early blindに分けられる。視覚表象の有無と失明時期の関係には個人差があるが,3~5歳以前の失明では視覚表象が残らないとされる。後期全盲では,視覚以外の感覚に基づく対象物の知覚像を視覚像に変換し,視覚的・空間的に理解できる。早期全盲では,視覚以外の感覚に基づいて外界を理解し,概念や行動・動作,思考,情緒的反応などが形成される。生まれつきの盲である先天盲を含む早期全盲では音のピッチや音色の弁別能力が後期全盲や視覚障害のない晴眼と比較して優れ,皮質可塑性にその根拠を求める研究がある。弱視は視力が弱いだけで視覚的行動が可能であり,晴眼と質的な違いはない。しかし,保有視力が低下するにつれて視覚的行動機能が逓減し,視覚的行動の困難性,不如意性が逓増する。

【視覚障害児の発達】 先天盲児も正常な発育・発達を示し,視覚情報の欠如自体は発育・発達の阻害要因に必ずしもならない。しかし,視覚情報の不足や欠如は活動を制限し,乳幼児の愛着行動や定位行動,接近・接触行動,移動行動の形成に影響を与える。その結果,身体発育や知的発達,社会性の発達などが2次的に阻害される可能性がある。視覚障害児は,バーバリズムverbalismとよばれる,実体や概念の理解を伴わないことばを多発する傾向がある。視覚障害児は,実世界とことばとを結びつける手がかりが不足したなかで言語を獲得・発達させており,不足した手がかりを補うとこの状態は改善される。視覚障害児には,目押し,光凝視,光の方を見ながら眼前で手指をぶらぶら動かすなど,ブラインディズムblindismとよばれる独特の行動を示すことがある。ブラインディズムは神経学的な組織の成熟を促すために脳が自己刺激する行動として理解される。また,刺激過多が原因の場合もある。とくに,中枢性視覚障害の子どもでは,周囲の環境が視覚的に複雑すぎると反復行動の中に引きこもりがちとなる。

【視覚障害児・視覚障害者の教育】 視覚障害教育の基本は,各教科等の内容・目標を踏まえて,個々のニーズに即して的確な教材・教具や機器を利用しながら特別な配慮と工夫のもとに通常の教育に準ずる教育を行なうこと,合わせて視覚障害に基づく種々の困難の改善・克服を行なう知識・技能を育てることである。視覚障害のある幼児・児童・生徒の教育の場には,すべての教科等の指導において特別な配慮や工夫のもとに指導を行なう特別支援学校(視覚障害),特定の教科において支援を行なう特別支援学級(弱視),教科等の学習に支障はないが障害に基づく種々の困難の改善・克服に必要な特別の指導を継続的に行なう通級による指導がある。

 視覚障害に基づく主な困難として,文字処理,歩行,日常生活動作がある。盲では文字処理に点字brailleが活用される。点字は縦3点,横2点の6点で構成される凸文字である。点字触読では,上下動の少ない,触圧の軽い,左から右への滑らかな触運動の獲得が指導される。手・指を動かしながら触る触運動感覚haptic perception(ハプティック知覚)は,触知覚と比較して4倍程度鋭敏(指先の触覚2点弁別閾は2mm強,ハプティック知覚は0.5~0.6mm)である。

 ロービジョンの文字処理では拡大教材やルーペ,単眼鏡,拡大読書器electronic vision enhancement system(EVES)などを用いた網膜像の拡大が行なわれる。個々の見え方に合わせて,地図や図表の単純化やノイズの除去,図と地のコントラストの増強や白黒反転,色彩の強調や除去,照明の工夫,遮光眼鏡の利用なども有効である。

 盲の歩行では,白杖歩行が一般的である。白杖には,①身体防御,②探知,③シンボルという三つの機能がある。早期全盲では自己中心的空間参照枠に基づく空間認知に止まる傾向が強く,歩行地図には外部空間参照枠に基づくサーベイ・マップよりもルート・マップが有効である。後期全盲ではサーベイ・マップも活用される。ロービジョンの歩行では,単眼鏡やビデオカメラ,暗所における懐中電灯の利用などが有効である。整容動作やトイレの利用,入浴,食事などの日常生活動作も視覚を利用しており,主に自立活動の授業において一つひとつていねいに,繰り返しの指導が行なわれている。 →視覚
〔柿澤 敏文〕

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