未熟児に起こる網膜血管病変です。重症例では、
根本的な原因は、網膜血管の未発達性にあります。網膜の血管は、胎内での発達期に視神経から眼底周辺部へと延びていき、正常な満期産の出生時にはほぼ眼底周辺部に達します。
しかし、未熟児で生まれると、網膜血管の発達は道半ばで周辺までは達していません。それにさまざまな条件が加わることにより、網膜血管が正常な発達を逸脱して網膜症が発症します。
在胎週数、出生体重が少ないほど起こりやすいのは当然ですが、呼吸窮迫(こきゅうきゅうはく)症候群、酸素投与、
網膜血管が達していない部分を無血管帯といいますが、無血管帯との境目に血管の異常な増殖が起こります。多くの場合、それは自然に解消して再び血管は周辺部へと延びていきます。しかし、時には
未熟児網膜症は活動期と
未熟児で生まれると、普通は眼底検査を定期的に行います。期間は在胎週数に換算して29週ないし生後3週ころから、もう危険がないと判断されるまでです。
初期には、血管の延び具合(無血管帯の広さ)、
活動期には網膜光凝固術(もうまくひかりぎょうこじゅつ)(コラム)、
根本的には保育条件を向上させ、網膜症の発症を極力抑えることが理想です。今のところ困難ですが、胎内の環境を忠実に再現できれば未熟児網膜症は起こらないわけです。
本人はもちろん、周囲の人が気づく病気ではありません。医療側が監視、管理、治療すべき病気です。
河野 眞一郎
未熟児網膜症(ROP)は発達中の未熟な網膜血管に起こる血管増殖性病変で、重症例では
網膜血管および網膜組織の代謝系が未熟であることを基盤とし、不適切な酸素投与、過剰な水分、感染、脳室内出血、栄養障害などのさまざまな因子が関係しているといわれています。
未熟な状態で出生した子どもの網膜周辺部は血管の発育が悪く、出生したあとに血管が伸びていきます。厚生省研究班による新臨床経過分類(表2)によると、最も多いⅠ型のROPの進行は反応性の血管造成(1期)後、それらと無血管域の間に境界線が形成され(2期)、さらに高度になると
この時点で自然によくなっていく場合が多いのですが、重症例では部分的網膜剥離(4期)、全剥離(5期)となります。また、急速に進行し網膜剥離となる症例(Ⅱ型)もあります。
なお、新臨床経過分類と国際分類はstageの分類の仕方が異なっているため、注意が必要です。
診断は前述の新臨床経過分類に従い、眼科医により行われます。出生体重1800g以下、在胎週数34週以下の症例では、生後3週以降から定期的に眼底検査を行う必要があります。ROPが発症した場合には診察の間隔を短くし、注意深い観察が必要です。また、高濃度酸素療法や人工換気療法を行った子どもでは、退院前に眼の診察を受けることがすすめられます。
Ⅰ型は自然に治る傾向が強いものの、3期の中期でさらに進行が予想される場合には治療が必要となります。Ⅱ型ではただちに治療を開始します。
治療はアルゴンレーザーによる
ROPの発症率は報告によって差がありますが、超低出生体重児(出生体重1000g未満)では発症率80%前後、治療率40%前後といわれています。在胎週数が早いほど、出生体重が軽いほど、ROPを合併する可能性が高くなります。
眼科医、新生児科医による診療と全身管理が必要です。
和田 雅樹
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
略してROPともいう。未熟児にみられる後天性の網膜血管病変。すでに1942年アメリカでその症例が報告されていたが,それが未熟児に関する後天性の病変だと気づかれるまでに数年を要した。さらに保育器内での酸素使用との関連が明らかにされ,未熟児への酸素使用の制限が行われるようになったのは54年以降である。日本では,このころは未熟児保育はまだ一般的ではなかったため,網膜症は注目されていなかったが,60年代半ばになって未熟児保育が普及するとともに網膜症への関心が高まった。未熟児網膜症は,未熟児,とくに出生時の体重2000g以下,在胎期間34週未満のものに高率に発生し,なかでも1500g未満の児では,1500g以上の児の10倍近いとされる。現在では,周産期の全身管理医学が高度になり発生頻度は少なくはなっているものの,脳の発育には酸素が必要なため,最終的にゼロにはなりえず,眼か脳かという選択を迫られることは避けられない。
未熟な網膜に対し,血液を通じて過剰な酸素が供給されると,児の発育にしたがって発育途上の網膜血管に収縮や閉塞が起こる。酸素投与が減らされると,病的な増殖反応が起こる。これが未熟児網膜症の原因である。この病気には,発症し進行する活動期と,固定する瘢痕(はんこん)期があり,活動期に比較的良性の経過をたどるⅠ型と悪性のⅡ型に分けられる。Ⅰ型では,多くが自然治癒の傾向を示し,一部が種々の程度の瘢痕期へ移行し固定する。Ⅱ型では,進行が急激で,短期間のうちに失明状態に至る。この瘢痕期はいわゆる水晶体後部繊維増殖症retrolental fibroplasia(略してRLF。1942年に報告されたときの病名)である。このようにⅡ型ではまったく視力を失うが,Ⅰ型では状態に応じある程度の視力は確保されることが多い。
治療法は日本で開発され,治療経験も積まれてきた。光凝固法がそれで,網膜症の治療には万能であるかのようにみえた時期もある。しかし現在までに確かめられていることは,中等度くらいまでの軽症例に対して行われた場合は早期に改善するということである。これだけでは光凝固治療が不可欠であるということにはならず,むしろ光凝固の合併症が危惧される。ほんとうに治療が必要なのは失明につながる重症例であるが,少数であるうえに光凝固の有効性の点でまだ多くの問題が残されている。なお,本症に類似する網膜硝子体病変で,発生異常あるいは遺伝性のものがある。これらは未熟児とは無関係である。
執筆者:小林 義治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
おもに生まれたときの体重が2000グラム未満で、胎生週数が34週(8か月)未満の新生児にみられる目の異常であり、網膜の血管の未熟性に起因すると考えられている。1942年アメリカのテリーT. L. Terryが、この疾患の瘢痕(はんこん)期病変をみつけて、後水晶体(水晶体後面)線維増殖症と名づけたが、その後これは未熟児に多く、いろいろな段階を経過することがわかり、1950年アメリカのヒースP. Heathが未熟児網膜症と名づけ、この用語が広く用いられている。ROP(retinopathy of prematurity)と略称される。保育器内で酸素を大量に用いた未熟児に重症者が多いということで、酸素の使用を制限するようになって患者数は激減したが、完全になくなるまでには至らなかった。逆に酸素量を制限しすぎることにより、脳性小児麻痺(まひ)や肺機能障害で死亡する患者が現れたため、酸素の適正な使用法が苦慮されているが、未熟児網膜症による失明や弱視を完全に防ぐことはむずかしい。
完成していない網膜の血管が酸素に対して弱いことは確かで、すぐに閉塞(へいそく)して浮腫(ふしゅ)や出血をおこし、新生血管が出現する。その修復過程に瘢痕組織ができ、それが瘢痕収縮をおこして網膜が剥離(はくり)するわけである。日本ではこの経過を活動期と瘢痕期に分け、活動期は進行に応じてⅠ型とⅡ型に、瘢痕期は程度により一度から四度まで分類されている。すなわち、活動期は、ゆっくり進行するⅠ型と、程度の進行が不規則で急激に進行して失明しやすいⅡ型に分けられ、Ⅰ型はさらに1期から4期に細分されている。その3期の初期までは瘢痕を残さず自然治癒する可能性があるが、3期の中期以上に進行すると、自然治癒しても瘢痕が残り、視力の発達を妨げる可能性が強くなる。Ⅱ型の場合は、強い瘢痕を残して自然治癒するため、その前に進行を食い止めなければならない。治療法としては、レーザー光線や液体窒素などを用いて網膜のタンパク質を凝固させる光凝固または冷凍凝固や硝子体(しょうしたい)手術による治療が行われている。なお、瘢痕の状態や、それぞれの状況に応じた支援が望まれる。
[大島 崇]
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