略してROPともいう。未熟児にみられる後天性の網膜血管病変。すでに1942年アメリカでその症例が報告されていたが,それが未熟児に関する後天性の病変だと気づかれるまでに数年を要した。さらに保育器内での酸素使用との関連が明らかにされ,未熟児への酸素使用の制限が行われるようになったのは54年以降である。日本では,このころは未熟児保育はまだ一般的ではなかったため,網膜症は注目されていなかったが,60年代半ばになって未熟児保育が普及するとともに網膜症への関心が高まった。未熟児網膜症は,未熟児,とくに出生時の体重2000g以下,在胎期間34週未満のものに高率に発生し,なかでも1500g未満の児では,1500g以上の児の10倍近いとされる。現在では,周産期の全身管理医学が高度になり発生頻度は少なくはなっているものの,脳の発育には酸素が必要なため,最終的にゼロにはなりえず,眼か脳かという選択を迫られることは避けられない。
未熟な網膜に対し,血液を通じて過剰な酸素が供給されると,児の発育にしたがって発育途上の網膜血管に収縮や閉塞が起こる。酸素投与が減らされると,病的な増殖反応が起こる。これが未熟児網膜症の原因である。この病気には,発症し進行する活動期と,固定する瘢痕(はんこん)期があり,活動期に比較的良性の経過をたどるⅠ型と悪性のⅡ型に分けられる。Ⅰ型では,多くが自然治癒の傾向を示し,一部が種々の程度の瘢痕期へ移行し固定する。Ⅱ型では,進行が急激で,短期間のうちに失明状態に至る。この瘢痕期はいわゆる水晶体後部繊維増殖症retrolental fibroplasia(略してRLF。1942年に報告されたときの病名)である。このようにⅡ型ではまったく視力を失うが,Ⅰ型では状態に応じある程度の視力は確保されることが多い。
治療法は日本で開発され,治療経験も積まれてきた。光凝固法がそれで,網膜症の治療には万能であるかのようにみえた時期もある。しかし現在までに確かめられていることは,中等度くらいまでの軽症例に対して行われた場合は早期に改善するということである。これだけでは光凝固治療が不可欠であるということにはならず,むしろ光凝固の合併症が危惧される。ほんとうに治療が必要なのは失明につながる重症例であるが,少数であるうえに光凝固の有効性の点でまだ多くの問題が残されている。なお,本症に類似する網膜硝子体病変で,発生異常あるいは遺伝性のものがある。これらは未熟児とは無関係である。
執筆者:小林 義治
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おもに生まれたときの体重が2000グラム未満で、胎生週数が34週(8か月)未満の新生児にみられる目の異常であり、網膜の血管の未熟性に起因すると考えられている。1942年アメリカのテリーT. L. Terryが、この疾患の瘢痕(はんこん)期病変をみつけて、後水晶体(水晶体後面)線維増殖症と名づけたが、その後これは未熟児に多く、いろいろな段階を経過することがわかり、1950年アメリカのヒースP. Heathが未熟児網膜症と名づけ、この用語が広く用いられている。ROP(retinopathy of prematurity)と略称される。保育器内で酸素を大量に用いた未熟児に重症者が多いということで、酸素の使用を制限するようになって患者数は激減したが、完全になくなるまでには至らなかった。逆に酸素量を制限しすぎることにより、脳性小児麻痺(まひ)や肺機能障害で死亡する患者が現れたため、酸素の適正な使用法が苦慮されているが、未熟児網膜症による失明や弱視を完全に防ぐことはむずかしい。
完成していない網膜の血管が酸素に対して弱いことは確かで、すぐに閉塞(へいそく)して浮腫(ふしゅ)や出血をおこし、新生血管が出現する。その修復過程に瘢痕組織ができ、それが瘢痕収縮をおこして網膜が剥離(はくり)するわけである。日本ではこの経過を活動期と瘢痕期に分け、活動期は進行に応じてⅠ型とⅡ型に、瘢痕期は程度により一度から四度まで分類されている。すなわち、活動期は、ゆっくり進行するⅠ型と、程度の進行が不規則で急激に進行して失明しやすいⅡ型に分けられ、Ⅰ型はさらに1期から4期に細分されている。その3期の初期までは瘢痕を残さず自然治癒する可能性があるが、3期の中期以上に進行すると、自然治癒しても瘢痕が残り、視力の発達を妨げる可能性が強くなる。Ⅱ型の場合は、強い瘢痕を残して自然治癒するため、その前に進行を食い止めなければならない。治療法としては、レーザー光線や液体窒素などを用いて網膜のタンパク質を凝固させる光凝固または冷凍凝固や硝子体(しょうしたい)手術による治療が行われている。なお、瘢痕の状態や、それぞれの状況に応じた支援が望まれる。
[大島 崇]
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