親権制限制度(読み)しんけんせいげんせいど

日本大百科全書(ニッポニカ) 「親権制限制度」の意味・わかりやすい解説

親権制限制度
しんけんせいげんせいど

親権喪失停止財産管理権の喪失について民法の定める制度。

 親権は、未成年の子の監護教育・財産管理などに関する親の権利義務であり、子の利益のために行使されなければならないと定められている(民法820条、824条)。親権の行使にあたっては子の人格を尊重し、子の年齢・発達の程度に配慮しなければならず、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならないとされている(同法821条)。親権者がこれらの行為をし、子の利益を害するときは、家庭裁判所がその程度に応じて親権の停止もしくは喪失または財産管理権(以下、管理権)の喪失の審判を行い、親権が制限されることもある。

 親権者による親権行使が、行方不明や心身の疾患などによって困難または不適当であることにより、子の利益を害するときは、家庭裁判所は親権を停止することができる(同法834条の2第1項)。親権が停止される期間は、2年を超えない範囲内で家庭裁判所が定める(同法834条の2第2項)。親権停止の制度は、2011年(平成23)の民法改正により新たに設けられた。それまでは親権喪失宣告制度しかなく、その要件が厳格であり、親権を無期限・無制限に奪うもので、その効果が重大であった。そのため、医療行為への不同意などのように、著しく不適当というほどではなく、必要に応じて一定期間、親権を制限すれば足りる事案にも対応できるように設けられたものである。

 親権者が、虐待や悪意の遺棄などにより「著しく」子の利益を害するとき、家庭裁判所は親権喪失の審判をすることができる(同法834条)。

 親権者による管理権の行使が困難または不適当であることにより、子の利益を害するときは、家庭裁判所は管理権喪失の審判をすることができる(同法835条)。管理権とは、親権者が未成年の子の財産(預貯金や相続した土地など)を管理し、その財産に関する法律行為を子に代わって行う権利・義務をいう(同法824条)。

 親権の喪失・停止、管理権の喪失はいずれも、未成年の子、その親族未成年後見人、未成年後見監督人または検察官の申立てにより審判が開始される。このほか児童相談所長も申立てをすることができる(児童福祉法33条の7)。

 司法統計年報によれば、2023年(令和5)の認容件数は、親権喪失審判が24件、親権停止審判が79件、管理権喪失審判が1件であった。

 家庭裁判所は、親権の喪失・停止、管理権の喪失のそれぞれの原因が消滅したときは、本人、またはその親族の請求によってこれらの審判を取り消すことができる(民法836条)。

 親権の喪失・停止または親権者の死亡などにより未成年者に親権を行う者がいないときや、親権者が管理権をもたないときは、未成年後見が開始し(同法838条1号)、親権者の遺言で指定された未成年後見人、または家庭裁判所により選任された未成年後見人が未成年者の監護教育、財産管理などを行う(同法857条、859条)。未成年後見人は個人でこれらの権限を行使するほか、法人が後見人に選任されたり(同法840条3項)、複数の後見人が選任されたりすることもある(同法857条の2)。これらのほか、児童福祉法上、一時保護や児童福祉施設入所などの措置がとられている児童については、親権者や未成年後見人がある場合であっても、児童相談所長や児童福祉施設の長は、児童の福祉のために必要な監護教育の措置をとることができ、児童の親権者等は児童相談所長などの措置を不当に妨げてはならないとされている(児童福祉法33条の2第2、3、4項、47条3、4項)。児童虐待防止法では、児童虐待を受けた児童について、一時保護や施設入所などの措置がとられている場合、児童の保護のために必要があるときは児童相談所長や児童福祉施設の長は、虐待を行った保護者に対して児童との面会や通信を制限することができると定めており(児童虐待防止法12条1項)、親権の一部を制限することができるようになっている。

[吉田恒雄 2025年2月14日]

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