親権(読み)しんけん

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

親権
しんけん

父母が未成年の子(実子および養子、ただし未婚の者)に対して有するさまざまな権利・義務の総称(民法818条以下)。親の子に対する権利をどのような性質のものとするかについては、歴史的にみて二つの大きな潮流があった。一つはローマ法の考え方で、父親あるいは家長は子のうえに絶対的な支配権を有するというものである。そこでは、父親だけが親権者となることができ、また、子は成年に達しても親権に服した。他の一つはゲルマン法の考え方である。ゲルマン法では、親は子に対してさまざまな権利をもつが、それは弱者に対する保護という目的からくるのだと考える。そこでは母親も親権者となりうるし、親権に服するのは未成年の子だけということになる。大ざっぱにいえば、親権法は、権威を主柱とする前者の考え方から、保護を目的とする後者の考え方にしだいに変遷してきたといえる。現在では、親権は親の権利というよりは、むしろ未成年の子を養育するために、親に対して与えられた職分であると解するほうが正しいとされる。

[高橋康之・野澤正充 2016年5月19日]

親権者

親権を行うのは原則として未成年の子の父母である。未成年の子の父母が健在ならば父母が共同で親権を行うのが原則であるが、その一方がいなかったり、長期間不在のため事実上親権を行うことができなかったり、親権喪失の宣告を受けたりしたときは、他の一方だけが親権者となる(民法818条3項)。また父母が離婚をする場合には、協議離婚のときは協議で、裁判離婚のときは裁判所が、それぞれ父母のどちらか一方を親権者と定める。嫡出でない子に対しては母が親権を行うが、父が認知した場合には父を親権者とすることもできる(同法819条)。養子に対しては実親ではなく養い親が親権者となる。なお親権者となるべき者がいなくなり、または親権者が管理権を有しないときは、未成年後見が開始することになる(同法838条1号)。

[高橋康之・野澤正充 2016年5月19日]

親権の内容

未成年の子の健全な保護育成のために民法は親権者の権利・義務を列挙している。

(1)親権者は、子の利益のために子の監護・教育をする権利を有し、義務を負う(民法820条)。父母が離婚する場合には、どちらが未成年の子を監護するかを、協議で、協議が調わないときは家庭裁判所が定める。監護者は親権者と同じであっても異なってもよい。

(2)親権者は監護・教育の目的を達するために、子に対してその居所を指定する権利がある(同法821条)。他人が未成年の子を連れ去って親のもとに帰さないときなどは、親はこの権利に基づいて、その他人の妨害の排除を裁判所に請求できることになる。

(3)監護・教育のために必要な範囲内で自分の子を懲戒することができる(同法822条)。

(4)未成年の子は親権者の許可を得なければ職業を営めない。いったん許可を与えても、未成年者がまだ営業に耐えないとみられるときは、許可を取り消したり、制限したりすることができる(同法823条)。

(5)親権者は自分の財産を管理するのと同じ程度の注意を払って、子の財産を管理する(同法827条)。しかし第三者が無償で子に与えた財産について、父母に管理させないといったときは、その財産は父母の管理に属さない(同法830条1項)。また子の財産上の行為については、親権者は法定代理人として子にかわって法律行為をする(同法824条)。未成年の子が自分で判断する能力をもつようになると、子が行う財産上の行為に親権者が同意を与えるだけでもよい。ただし子が利益を得るだけでなにも義務を負わない場合には、子は親権者の同意を得なくてもよい(同法5条1項)。

[高橋康之・野澤正充 2016年5月19日]

親権の制限

親権者が子の法定代理人として行為する場合でも、未成年者にかわって労働契約を締結することはできない(労働基準法58条1項)。親と雇主との間でかってに子の就職を決めてはならないのである。また、親が子の有する不動産を買ったり、数人の子のために遺産分割をするような場合に、親権者がその子を代理しては子の利益を害することがありうるから、そのような場合には、特別代理人を定めることを家庭裁判所に請求しなければならない(民法826条)。

[高橋康之・野澤正充 2016年5月19日]

親権の喪失・停止・管理権の喪失

親権は子のために負う親の義務であるから、親権者はかってにやめることはできず、病気などのやむをえない事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、親権者または財産の管理をやめることができる(民法837条1項)。また、親権者は、子の利益のために親権を行使するのであるから(同法820条)、親権を適切に行使しない父母については、家庭裁判所が、親権者の地位を剥奪(はくだつ)する(親権喪失の審判=同法834条)か、2年を上限に親権者の地位を停止する(親権停止の審判=同法834条の2)か、財産管理権のみを剥奪する(管理権喪失の審判=同法835条)ことができる。これらの審判を申し立てることができるのは、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人または検察官である。児童虐待の増加により、親権の喪失・停止の申立てが増えている。

[高橋康之・野澤正充 2016年5月19日]

国際的親子関係における親権

国際的親子関係には、夫婦から生まれた子についての嫡出親子関係、夫婦でない男女間から生まれた子についての非嫡出親子関係、さらに、養子縁組により養子となった子についての養親子関係があるが、日本の国際私法典である「法の適用に関する通則法」(平成18年法律第78号)第32条によれば、いずれのタイプの親子関係であれ、親権を含む親子間の法律関係については次のような段階的連結により準拠法が定められることとされている。すなわち、第1段階として、生存している父または母の本国法のいずれかが子の本国法と同一であれば、その法による。この場合、重国籍者については、国籍を有する国のうち常居所を有する国があればその国の法、そのような国がなければ当事者にもっとも密接に関係する国を具体的状況に基づいて判断し、その国の法がその者の本国法とされる(同法32条1項)。他方、無国籍者の場合にはこの第1段階は成立しないものとして扱われる(同法32条2項但書)。次に、この第1段階が成立しない場合には、第2段階として、子の常居所地法が準拠法とされる。

 このように、第1段階の準拠法決定が立法されたのは、協議離婚の際の親権者の指定の場合、戸籍窓口での形式審査だけで処理ができるようにするという実務上の必要によるものである。すなわち、日本法により協議離婚をする場合、子がいるときには、父母のいずれか一方を親権者と定める必要があるところ、日本での協議離婚届がされる多くは、いずれか一方の親が日本人である場合が多いので、子も日本人であることが戸籍で確認できれば、前記の第1段階により日本法が準拠法となることを形式審査だけで確定することができるからである。ちなみに、日本の国籍法では父母両性血統主義が採用されているので、いずれか一方の親が日本人であれば、原則として子も日本人である。一般に、子の本国法が両親の本国法のいずれとも異なることはまれであり、前記の第1段階で準拠法が定まる場合がほとんどである。

 なお、親権は未成年者の子と親との関係において行使されるものであるから、法の適用に関する通則法第32条の適用の先決問題として子が未成年者か否かを決定する必要があるが、これについては人の行為能力はその本国法によると定める同法第4条により、その準拠法が成年年齢を何歳としているかによることになる。

[道垣内正人 2016年5月19日]

国際的な子の奪い去り

親権が害される場合としてもっとも深刻なのは、婚姻関係が破綻(はたん)した両親の間で子の奪い合いが生じ、国境を越えて子を連れ去る事件である。日本から連れ去られた子の取戻しを外国の裁判所で請求することや、国外から日本へ連れ去った子についての日本の裁判所での取戻し請求事件が現実に発生している。日本での手続として利用されてきたのは、人身保護法(昭和23年法律第199号)である。本来は権力者による不当逮捕等からの解放を裁判所に求めるためにイギリスで発達した「人身保護令状」に起源を有するものであり、第二次世界大戦後に日本に導入された制度であるが、迅速かつ実効的な解決が与えられるので、日本では国内事件を含めて子の連れ戻しのために活用されてきた。子の引渡し命令がなされるのは、違法に拘束されていると認定される場合であり、この種の事件では、違法性は子の幸福のためにはどちらで生活するのがよいかという観点から判断される。

 国際的な子の奪い去りの場合に重要なことは迅速な原状回復である。そうでなければ、子はすぐに新しい国に慣れてしまい、元の国に戻すことが困難となるからである。そこで、国際的な協力体制をつくろうとする条約が締結されている。1980年(昭和55)にハーグ国際私法会議で採択された「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」がこれであり、申立てにより、各国であらかじめ定められた中央当局(日本では外務省)が子の所在の発見、裁判の援助、情報交換等、子の返還のために必要な措置をとることとされている。先進国を中心に93の締約国を数えている(2016年1月時点)。日本は2014年(平成26)に批准し、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」(平成25年法律第48号)を制定して運用している。

[道垣内正人 2016年5月19日]

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百科事典マイペディアの解説

親権【しんけん】

父母が未成年の子に対して有する身分上(ないし人格上)および財産上の監督保護を内容とする権利義務の総称(民法818条以下)。〈権〉という文字が使われているが,内容的にはむしろ義務が重要である。権を行う者が親権者で,父母が共同して親権者になるのが原則であるが,父母が婚姻関係にないとき(離婚)は法律の規定,父母の協議,家庭裁判所の審判によって,いずれか一方が親権者となる(共同監護を参照)。親権に服するのは未成年の子に限られる。親権の内容は,子の監護教育,居所指定,懲戒,職業許可,財産管理および子の財産に関する法律行為代理である。親権者と子の利益が相反する場合(利益相反行為)には管理権がない。親権者が親権を濫用しまたは著しく不行跡であるときは,子の親族または検察官の請求によって,家庭裁判所は親権喪失の宣告をすることができる。またやむを得ない事由があれば,家庭裁判所の許可を得て親権または管理権を辞することができる。親権者がいないとき,または親権者が管理権をもたないときは後見が開始する。→家長権
→関連項目教育権協議離婚後見人私生子法定代理人未成年者無能力者面接交渉権

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

親権
しんけん
elterliche Gewalt,elterliche Sorge

未成年の子の監督保護のため父母などに認められた権利義務のこと。親権の語は沿革的理由によるものであり,内容は子に対する親の権利というより義務的要素が強い。親権は子の父母 (養子は養父母) が共同で行使することを原則とする (民法 818) が,父母の婚姻解消の場合や非嫡出子の場合は一方のみが親権者となる (819条) 。本来の親権者を欠くときは後見人が親権者となる (838条1号) 。親権に服するのは未成年の子に限られている (818条1項) 。親権の内容は子の身上監護,教育に関する事項 (民法 820~823,学校教育法 22,39など) と子の財産管理に関する事項 (民法 824) であり,子の財産上の法律行為と一部の身分上の行為について親権者に子の代理権が認められる (824,787,797条など) 。ただし子と親権者の利益相反事項については例外がある (826条) 。親権者の親権行使が失当な場合には,家庭裁判所の審判によって,親権喪失宣告 (834条) や管理権喪失宣告 (835条) が行われることもある。

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精選版 日本国語大辞典の解説

しん‐けん【親権】

〘名〙 父母が未成年の子に対してもっている権利、義務の総称。居所指定権、懲戒権、職業許可権、財産管理権など。
※民法(明治二九年)(1896)八七七条「子は其家に在る父の親権に服す」

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世界大百科事典 第2版の解説

しんけん【親権】

子の保育,監護,教育,財産管理などを行う親の包括的な権利・義務,あるいはその職務をいう。
意義
 未成年者は,法律上1個の独立した人格として扱うに足る精神的・肉体的能力をもたないとされるから,だれかがこれをめんどうみなければならない。法律は,第一次的にその未成年者の親がこれに当たるものとして,この職務を親権と呼んでいる。とりわけ今日では,未成熟子の保育,監護,教育が親権の中核とされ,その目ざすところは子の福祉の実現にあると解されている。

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世界大百科事典内の親権の言及

【勘当】より

…勘当したりこれを宥免したりする権利は親(とくに父)の有するところで,父死亡後は母もしくは兄がこの権利を行使した。このような場合の兄の勘当権については,これを親代りの兄が親に代わって親権を行使するものと解する説と,兄が当主たることにもとづいて行使する当主権の発動であるとみる説とが対立している。明治になって勘当の制度は廃止されたが,明治民法に見られる法定推定家督相続人の廃除(廃嫡)や戸主の居所指定権ないし離籍権は,そのなごりであるとも考えられる。…

【教育権】より

…包括的概念として用いられる場合を別として,教育方針,教育内容の決定と実施に関する権能として具体的に問題となるのは,(1)親の教育権,(2)教育権についての国民と国家の関係,(3)教師の教育権である。 (1)発生史的にいえば,教育権は子にたいする親の権利(親権)の一部をなすものであったから,家族法の生成とともに古い概念である。しかし歴史的発展のなかで,親権は子にたいする支配権ではなく,子どもの発達を保障する親の義務と解されるようになってきた。…

【後見】より

…まず前者について述べ,後者については前者との差異点のみを述べることにする。
[未成年後見]
 日本の民法では,未成年者の親が親権者となり未成年者を保護するのが原則である。しかし,未成年者に親がいないとき,または,親があっても親権喪失や親権行使不能のため保護の任務を果たすことができないときには,後見が開始し(民法838条1項),親権者の役割を代行する後見人がおかれる。…

【妻】より

…こうしたことは,子どもに対する親としての教令権についても同じであった。つまり《御成敗式目》の18条が,〈男女の号異なりといえども,父母の恩惟(これ)同じ〉と記したように,当時においては,子どもに対して親権(教令権)を行使しうる立場にあったのは,父と母との両名だった。これは,きわめて平凡なことのように思えるかもしれないが,中世後期から江戸時代になると,親権といえば父の権限のことに限られるようになるから,それと比較するとき,鎌倉時代における上記の事実は,やはりこの時代の特色を示すものとして,はっきり確認されなければならない。…

※「親権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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