中国では〈解放〉ということばは一般的な意味でも使われるが,また〈解放〉は,帝国主義,封建勢力,官僚独占資本を倒すための長期にわたる革命がついに勝利し,中国人民がみずからの解放をかちとった歴史的体験を具体的に指す,歴史的用語でもある。解放区とは,この解放を達成するために,1927年秋,井岡山に最初の武装革命根拠地が生まれて以来,毛沢東の中国革命の戦略思想に基づいて,遊撃戦争の戦略基地として農村地帯に建設されてきた特定の地域のことである。ここでは帝国主義・反動派の軍事的・政治的勢力は消滅せられており,中国共産党の指導の下に労農大衆が武装し,人民政権を組織していた。解放区は遊撃戦争の軍事的根拠地であったが,同時にここでは,人民大衆の思想を解放し,農村革命を実行し,それによって生産力を解放する条件をつくり出しつつ,独自の新しい経済・社会・文化の建設を行った。
解放区が建設された地域,政権の中心,実行された政策,当事者による呼称などは,時期によって変化してきた。第2次国内革命戦争期(1927-37)には,江西,湖南を中心とする割拠地区,紅色区域はしだいに革命根拠地として戦略的に位置づけられ,全国各地に拡大したが,ここに労農ソビエト政権を打ち立てたので,国民党支配地区に対してソビエト区と称していた。抗日戦争期には第2次国共合作の条件の一つとしてソビエト区の呼称をとりやめ,その政権を中華民国特区政府と正式に改めたが,各解放区は陝甘寧辺区,晋察冀辺区などと名づけられ,その各政府も辺区政府を称した。辺区の呼称は省境地区に解放区があったために以前からあったものだが,この時期に一般化した。抗日戦争期の辺区は,抗日根拠地と遊撃区を含み,日本軍占領区をとりかこむ形で対峙し,国民党支配地区からは独自性を保持していた。これが一般に解放区といわれるようになるのは抗日戦争の後期からで,日本軍の占領から解放された地域を意味した。第3次国内革命戦争期(1945-49)には,抗日戦争期の老解放区に加えて国民党の支配から解放をかちとった新解放区が急速に拡大し,全国が解放されることになった。現在では,解放および解放区の概念が歴史的に定着し,さかのぼって井岡山以来を解放区ともいうようになった。
執筆者:石田 米子
解放区は中国革命の過程で設けられた革命根拠地を意味したのが始まりであるが,その後,中国に限らず一般的に使われる語となった。つまり,抑圧的な国内の支配勢力や,彼らと結託した帝国主義支配から人民を解放する闘争の拠点とするために設けられた革命根拠地で,政府支配から解放されている地区をいう。革命勢力は当初,劣勢であるため,解放区は政府権力の手の及びにくい,経済的にも遅れた地域が選ばれ,そこで革命軍の育成や土地・税制改革,民衆教育などまったく新しいタイプの政治がおこなわれ,人民の支持を得て,しだいに政府軍の重要拠点を包囲制圧して解放区を広げていった。
中国の解放区以外では,太平洋戦争中の日本軍占領時代に,ホー・チ・ミンの指導のもと,北ベトナム北東部の少数民族地区に作られたベトバク解放区が最初といわれる。その後,南ベトナムの南ベトナム解放民族戦線,ラオスのラオス愛国戦線(パテト・ラオ)などに解放区の例がみられる。また,アルジェリア,キューバなどのように革命に成功した例のほかにも,アフリカの民族解放闘争の過程において重要な役割を担った,アンゴラ解放人民運動(MPLA),モザンビーク解放戦線(FRELIMO)などがある。このように解放区は,それぞれの国において革命根拠地として設けられた。
→ゲリラ
執筆者:八木沢 三夫
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原語は中国語。反動的な支配を覆し、人民の権力を樹立した地域の意味で、中国共産党が日中戦争期、戦後の国民党との内戦期に、共産党の指導する軍隊が日本軍、傀儡(かいらい)軍、国民党軍の支配から解放した地域をさすのに用いた。日中戦争期、延安(えんあん)を中心として、日本軍占領下の華北・華中の農村地帯、内戦期の東北・華北・中原(ちゅうげん)の解放区が有名。そこでは共産党によって政治、経済、社会、文化面での改革が遂行されることにより、これら地域が共産党勢力の基盤となり、のちに解放区は拡大・統合されて全国的権力を樹立する重要な基礎となった。第二次世界大戦後、中国以外でも南ベトナムなどアジア、アフリカ南部、中南米、アフガニスタンで、外国勢力、傀儡政府軍に対する反体制勢力の支配する地域を「解放区」と称した。また、1960年代後半のパリの五月革命や日本の大学闘争の盛んな一時期、大学や町の一角を占拠して、国家権力の支配を遮断し、学生、市民の権力によって秩序化した革命的地域空間を「解放区」と称したこともある。
[安藤正士]
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…これらはやがて40年3月に汪兆銘を頭につくられる〈統一〉傀儡(かいらい)政権=中華民国国民政府(汪兆銘政権,南京)に統合されるのだが,抗日戦争中の中国は,大きくいって日本・傀儡政権支配下の〈淪陥区〉と重慶政府に属する〈大後方〉の二つの部分に分かれていたのである。さらにいえば,共産党の辺区政府は独立自主の原則をかかげた別組織であったばかりでなく,淪陥区のなかに多くの抗日根拠地(解放区)をつくりあげ,日本軍・傀儡軍をして点と線の維持に汲々たらしめていた。 国民参政会の成立に象徴されるように,最初は国共合作もかなり順調だったが,日本軍の侵攻がゆるんで対峙段階に入ると蔣介石は早速に共産党勢力に対する攻撃を開始した。…
※「解放区」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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