日本大百科全書(ニッポニカ) 「モンゴル文字」の意味・わかりやすい解説
モンゴル文字
もんごるもじ
モンゴル(蒙古(もうこ))語の表記に使われるウイグル系表音文字。縦書きで左行から右行に移る。モンゴル人は、13世紀には、ウイグル字形を借りて自国語を表記していたが、14世紀、元の武宗(海山汗(ハイシャンハン)、在位1307~11)の時代になって、モンゴル語の性格にあわせて修正補充したモンゴル文字が誕生する。数回の改正を経て、17世紀にほぼ現行のモンゴル文字と同じようになり、その後仏典の翻訳が盛んになって、もっぱら梵(ぼん)語とチベット語を表記するためのガリックGalic文字がつくられた。モンゴル文字で書かれた碑文、文書、仏典が多量に残っている。1940年代以降、モンゴル国では、このモンゴル文字を廃して、キリル文字を採用してきたが、中国の内モンゴル自治区では、いまもなお母音字5種、子音字23種からなるモンゴル文字が使われている。単語ごとに続けて書き、字形は語頭、語中、語末の位置によって違った形をもつ。この文字には、uとo、üとöなどの対立した二つの音素を表記分けしないとか、横書きができないためローマ字の挿入がむずかしく、科学書の表記に適さないなどの欠点がある。1648年、オイラート方言を基にして、モンゴル文字を改良したトド文字がつくられた。母音字は7種に、子音字は24種に増加し、現在なお、中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区のオイラート人、ロシア連邦のカルムイク人や、中国の青海地域一帯のモンゴル人に用いられている。モンゴル国でも、1980年代末からモンゴル文字復活の動きが起こり、1990年最初の自由選挙で選ばれた新政府が、モンゴル文字を公用文字とする決定をした。キリル文字との併用期間を経て完全にモンゴル文字に切り替えることになっていたが、94年モンゴル国会は、当面、キリル文字を公用語とするとし、モンゴル文字は準公用語の地位に後退した。
[西田龍雄]