字母(読み)じぼ

精選版 日本国語大辞典 「字母」の意味・読み・例文・類語

じ‐ぼ【字母】

〘名〙
漢字の音の基本となる文字。
※凌雲集(814)謁海上人〈仲雄王〉「字母弘三乗、真言演四句
② かな、梵字(ぼんじ)アルファベットなどの表音文字の一つ一つの字。
和字正濫鈔(1693)一「梵字の学を悉曇といふ〈略〉其字母四十七字あり」
③ (matrix の訳語) 活字を作るもととなる字型。母型。〔改正増補和英語林集成(1886)〕
※プロレタリヤの星(1931)〈平林たい子〉四「字母の入っている戸棚の方へ立った」

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デジタル大辞泉 「字母」の意味・読み・例文・類語

じ‐ぼ【字母】

仮名アルファベット梵字ぼんじなど、単語をつづる表音文字の一つ一つの字。
母型ぼけい」に同じ。
[類語]文字邦字ローマ字文字もんじ鳥跡ちょうせき鳥の跡用字表記点画てんかくレターアルファベットハングル梵字ぼんじ大文字小文字頭文字イニシャル英字数字漢字仮名真名片仮名平仮名万葉仮名表音文字表意文字音字意字象形文字楔形くさびがた文字甲骨文

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改訂新版 世界大百科事典 「字母」の意味・わかりやすい解説

字母 (じぼ)

文字には種々の体系があるが,いずれもその体系中の個々の要素である〈字〉の結合・連続によって特定の言語を表記するのを目的とする。しかし,その体系の要素である1字1字の機能にはちがいがあるので,文字はその表す単位によって〈単語文字(表語文字)〉〈音節文字〉〈音素文字(単音文字)〉に分けられる。〈かな〉のような音節文字とローマ字(アルファベット)のような音素文字は単語よりも小さな単位(音節音素)に分析しているので個々の字が直接には意義と結びつかず,〈表音文字〉と呼んで,漢字のような単語文字である〈表意文字〉に対せしめられる。そして,表音文字の体系を構成する個々の字が,〈字母〉と呼ばれる。ただし,たとえばローマ字はABCからXYZに至る26字母からなるというが,〈かな〉のいろは48字は普通は字母といわない。なお,字母における1字1音の対応関係は原則にとどまり,実際は音韻変化の結果として1字母が二つ以上の音素を表すのに用いられたり,二つ以上の字母の結合によって1音素を表すようになっている場合も少なくない。
執筆者: 中国語においても,注音字母,拼音(ピンイン)字母のごとく,音標文字あるいは音声記号の最小の書写単位,すなわちアルファベットの意味に用いることもあるが,中国音韻学では頭子音を分類して得られた各類の名称,すなわち声母の代表字を意味した。三十六字母という用法がそれである。〈字母(じも)〉の語は,梁の僧伽婆羅訳《文殊師利問経》の〈字母品〉にみえるのを初出とし,以下,仏典ではアルファベットの意味で使用されている。ところが,唐の智広《悉曇字記》にいたって,摩多((マーター)mātā,母音)に対する体文(たいもん)(ビヤンジャナvyañjana,子音)を字母(=文字の母体)と呼び,後続する悉曇学書の類はこれにならった。梵字の書写法は,ka,kha,gaのように-aのついた音節文字を基本とし,子音部分は共通で,これに母音要素を付加して,kā,ki,kīのように音節字を合成する。中国音韻学では,悉曇学書に説くこの翻字-梵字の書写合成法を媒介として,子音部分を〈字母〉と呼ぶようになったと思われる。

 なお,〈字母〉の語は印刷用語の〈母型〉と同じ意味でも用いられ,これは活字を製作・鋳造するための,字面(じづら)を形どった金属製の型(かた)のことをさす。
文字
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「字母」の意味・わかりやすい解説

字母
じぼ

(1)アルファベット、ハングルのように、子音字と母音字とがあって、音節をそれらの組合せとして書き表す文字の各字letter。字をつづり合わせて初めて語が書ける表記形式なので、その1字が表記の要素、基になるものという意味で字母とよばれる。なお、仮名の1字を字母とよぶのは誤りである。また、句読点などの記号を含め、同じデザインの字母や活字の一そろいをフォントfont、書体)という。

(2)中国の注音字母は、音節を声母(頭子音部)と韻母(ときに末子音も添えた母音部)とに分割して記す記号である。中国古来の韻学では、声母に36の種別をたてて字母としている。

(3)活版印刷の組み版に用いる活字を鋳造するために用意される母型matrix。作り方によって、彫刻字母、電胎字母、打ち出し字母に分かれる。

[日下部文夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「字母」の意味・わかりやすい解説

字母
じぼ

(1) 音を書き表わす場合の基本となるひとつひとつの文字。単音を表わすのを原則とするアルファベットが代表であるが,かな文字やデーバナーガリー文字などの音節文字のひとつひとつも字母ということがある。音声記号もまた,各単音に一記号を対応させて用いる方式の場合は音声字母ともいう。 (2) 漢字の声母を分類する際に用いられる,各声母をもつ代表字をさす。『韻鏡』の枠組みでは語頭子音が 36あり,これを三十六字母という。 (3) 活字の鋳型をつくるもととなる字型。活字母型のこと。

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百科事典マイペディア 「字母」の意味・わかりやすい解説

字母【じぼ】

印刷用語。→母型
→関連項目点字

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世界大百科事典(旧版)内の字母の言及

【字母】より

…〈かな〉のような音節文字とローマ字(アルファベット)のような音素文字は単語よりも小さな単位(音節音素)に分析しているので個々の字が直接には意義と結びつかず,〈表音文字〉と呼んで,漢字のような単語文字である〈表意文字〉に対せしめられる。そして,表音文字の体系を構成する個々の字が,〈字母〉と呼ばれる。ただし,たとえばローマ字はABCからXYZに至る26字母からなるというが,〈かな〉のいろは48字は普通は字母といわない。…

【韻図】より

…《韻鏡》にみられる七音の枠,すなわち頭子音の調音部位による唇音・舌音・牙音・歯音・喉音・半舌音・半歯音の7区分,および各枠内の清・次清・濁・清濁という調音方法の区別は,したがって,インド音声学の影響を思わせる。頭子音の代表字を定めて,それを字母と呼ぶが,元来仏典においてアルファベットを意味した〈字母〉が頭子音の個々を意味するようになるのは,インド文字の書写法を仲介にして,はじめて説明可能である。かくのごとく,頭子音の把握にインド音声学の影響を想定することは,許されるであろう。…

【レタリング】より

…タイプライターやコンピューターのプリンターなどの機械も加わって,文字を表す方法はしだいに広がり複雑になってきた。印刷においても情報の大量化にともない,従来の手組みの活版印刷に加えて,モノタイプ機,ライノタイプ機,写真植字機などが導入されてスピード化がはかられ,1ページに収める情報量を増やすために文字が縮小され,情報の多様化にともなって書体の種類も多くなったが,これらの文字も原型(字母(じぼ))はすべて手によって書かれたものである。今日ではレタリングの世界はさらに広がり,街角や高速道路で用いられる文字や,電光掲示板の文字,高層ビルの窓の開閉によって表された文字,運動会の〈人文字〉など,書くのではなく計画によって表現される文字もその対象になっている。…

※「字母」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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