漁業法に基づいて、漁業調整等(水産資源の保存や管理あるいはその再生産の阻害の防止、または漁場紛争の防止のために必要な調整等)を目的として自由に漁業を営むことを一般に禁止している漁業について、特定の者に漁船規模、漁場、漁期、漁具、漁法等の制限措置の下で漁獲を行えるようにしたもの。許可漁業は「警察許可」の一種と解され、権利性を有する免許漁業(漁業権漁業)制度とは性質を異にする。通常の沖合・遠洋漁業がこれにあたる。許可漁業には大別して農林水産大臣によるもの(大臣許可)と都道府県知事によるもの(知事許可)とがある。この許可漁業制度は、2018年(平成30)12月の漁業法改正(2020年12月施行)により体系的な見直しが行われた。なお、この改正により、大臣許可においては、漁業種類を政令で定める指定漁業制度が廃止され、大臣許可漁業とすべき漁業の要件を政令で定め、これを満たす漁業種類を農林水産省令で定める方法に改められた。
大臣許可漁業は漁場の区域が複数県にまたがったり、政府間の取決めが存在したりする場合において、漁業者やその使用する漁船について省令等により農林水産大臣が統一した制限措置を講ずることが妥当と判断される業種である。大臣は新規の許認可については許可等をすべき漁船数、その総トン数、操業区域、漁期、漁具の種類等の制限措置を定め、申請期間とともにあらかじめ公示する。大臣許可漁業の許可の有効期間は原則5年とされている。上記の漁業法改正以後、従来の5年ごとの一斉更新制度は廃止され、既存の許可漁業者は適格性を失わない限り継続して許可を受けられることとなり、新規の許可については資源状況や廃業等の見合いで随時行われることとなった。許可を受けた漁業者は漁獲実績、資源管理状況等の報告義務があり、また衛星船位測定送信機(VMS:Vessel Monitoring System)の設置が求められる。今後、現行総漁獲可能量(TAC:Total Allowable Catch)管理の下で、漁獲割当て(IQ:Individual Quota)制度が導入される場合においては、漁船の総トン数制限を設けない方針を水産庁は打ち出している。
2021年(令和3)1月時点で、大臣許可漁業として以下の17業種が指定されている。(1)沖合底引網漁業、(2)以西底引網漁業、(3)遠洋底引網漁業、(4)東シナ海延縄(はえなわ)漁業、(5)太平洋底刺網(さしあみ)等漁業、(6)大西洋等延縄等漁業、(7)大中型巻網漁業、(8)基地式捕鯨業、(9)母船式捕鯨業、(10)カジキ等流し網漁業、(11)東シナ海等カジキ等流し網漁業、(12)カツオ・マグロ漁業、(13)中型サケ・マス流し網漁業、(14)北太平洋サンマ漁業、(15)ズワイガニ漁業、(16)日本海ベニズワイガニ漁業、(17)イカ釣り漁業。
なお、小規模漁業ではあるが資源管理状況の把握や国際的漁業管理等が求められる小型スルメイカ釣り漁業、沿岸マグロ延縄漁業、暫定措置水域沿岸漁業等については農林水産大臣への届出が必要な業種とされる(届出漁業)。
知事許可漁業は、大臣許可以外のローカルな近海・沖合での許可漁業をさすが、これはまた漁業調整上大きく2種類の措置に区分される。一つは農林水産大臣が設定する隻数制限等の枠内で都道府県知事の許可を受ける中型巻網漁業、小型機船底引網漁業、瀬戸内海機船船引網漁業、小型サケ・マス流し網漁業等の業種であるが、これらは中小型漁船ながら広域的な操業実態があり、大臣が使用漁船等の制限措置を講じるものである。知事はこの枠内で必要な規制を行う。もう一つは、一般の知事許可漁業で地域的な網漁業、延縄・釣漁業、カゴ漁業、突きん棒等々、地元漁場を中心とした漁業で、非常に雑多で表記も呼称もまちまちである場合が多い。各知事は基本的に漁業調整規則を定め、これにのっとり漁船、漁具、漁法、採捕資源の制限や禁止、あるいは漁業者の数や資格制限、沿岸漁業との調整等さまざまな規制を行っている。また、地元の海区漁業調整委員会の意見を聞いたうえで許可行政を行っている。このほか都道府県には漁業調整委員会が独自に漁業の禁止や制限等を定めうる「委員会指示」等、知事許可に準ずる制度もある。
[廣吉勝治・工藤貴史 2022年8月18日]
農林水産大臣や都道府県知事の許可を受けなければ営めない漁業。水産資源の保護や漁業調整の目的から,自由に漁業を営むことを一般的に禁止したうえで,行政庁が出願を審査して特定の者に禁止を解除するものである。本来の自由の回復なので,他の漁業者を排除して独占的に営む権利である漁業権とはその性格が異なる。現在,日本の漁獲高の多くは,この許可漁業によって占められている。許可漁業には,大別して指定漁業(大臣許可漁業)と知事許可漁業がある。(1)指定漁業とは,農林水産大臣の許可を必要とする漁業であって政令で定められたものをいう(漁業法52条1項)。現在では,沖合底びき網漁業,大中型まき網漁業,遠洋かつお・まぐろ漁業等,比較的大規模な漁業がその対象となっている。これらはいずれも一般に,利権としての価値も高いため,漁業者はこれを漁業権と通称しているが,法律的には漁業権ではなく,物権として取り扱われてはいない。指定漁業の許可または起業の認可をすべき船舶の隻数,総トン数等は許可等に先立ってあらかじめ公示されなければならない。(2)知事許可漁業には,法定知事許可漁業と各都道府県の漁業調整規則による知事許可漁業がある。法定知事許可漁業には,中型まき網漁業,小型機船底びき網漁業,小型さけ・ます流し網漁業等がある。これらは水産資源の保護培養上あるいは2府県間にまたがる漁業調整上問題がある漁業で,知事による許可のほか都道府県ごとの許可隻数の最高限度,許可しうる漁船の馬力数の限度等について農林水産大臣が統一的に規制できる。各都道府県の漁業調整規則(漁業法65条1項および水産資源保護法4条1項)による知事許可漁業は,指定漁業,漁業権漁業を除く漁業のほとんどを占める。おもなものは,刺網漁業,小型まき網漁業,機船底びき網漁業等である。
執筆者:金田 禎之
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…漁業権には,定置漁業権,区画漁業権および共同漁業権の3種類がある(漁業法6条)。漁業制度上漁業の種類を分類すれば,漁業権漁業のほかに許可漁業および自由漁業がある。自由漁業は,免許や許可を要しない漁業であって,水産資源の保護培養上,漁業の調整上とくに問題とならない一部の一本釣漁業,延縄(はえなわ)漁業などの漁業がこれに該当する。…
…すなわち慣行専用漁業権・特別漁業権は廃絶,地先専用漁業権は共同漁業権に切り替え,権利内容の漁業種類も採貝藻や小型定置網漁業など底生・定着性の水産動植物を対象とする漁業および漁具を固定して営む漁業に限定した。これによって専用漁業権による多くの漁業は自由漁業または知事許可漁業(地方許可漁業)となり,漁業の自由な発展が可能となった。また免許の優先順位の規定や漁業調整委員会の運用を通じて,漁業協同組合に漁業権を集中させ,一方ロッチデールの原則(〈生活協同組合〉の項参照)に基づく水産業協同組合法によって漁業協同組合の民主的運営を保証し,かくて漁場利用面における民主主義を実現したのである。…
※「許可漁業」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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