以西底引網漁業(読み)イセイソコビキアミギョギョウ

デジタル大辞泉 「以西底引網漁業」の意味・読み・例文・類語

いせいそこびきあみ‐ぎょぎょう〔‐ギヨゲフ〕【以西底引(き)網漁業】

東経128度30分から西の黄海東シナ海で操業する底引き網の漁業。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「以西底引網漁業」の意味・わかりやすい解説

以西底引網漁業
いせいそこびきあみぎょぎょう

政令で定める太平洋の海域において、総トン数15トン以上の動力漁船により底引網を使用して行われる漁業。

 海域は、「漁業法第52条第1項の指定漁業を定める政令」(昭和38年政令第6号)により、北緯10度20秒の線以北で、以下の線からなる線以西と定められている。

(1)北緯33度9分27秒以北の東経127度59分52秒の線。

(2)北緯33度9分27秒東経127度59分52秒の点から北緯33度9分27秒東経128度29分52秒の点に至る直線。

(3)北緯33度9分27秒東経128度29分52秒の点から北緯25度15秒東経128度29分53秒の点に至る直線。

(4)北緯25度15秒東経128度29分53秒の点から北緯25度15秒東経120度59分55秒の点に至る直線。

(5)北緯25度15秒以南の東経120度59分55秒の線。

 漁業における名称表記としては「以西底曳(そこびき)網漁業」とするのが正しいが、一般には「以西底引網漁業」の表記が通行している。この漁業にはトロール漁業機船底引網漁業とがあり、トロールによる漁獲は1969年(昭和44)以来1%にも満たず、ほとんどが機船底引網によっている。漁獲対象魚は、イカ類、グチ・ニベ類(シログチクログチキグチ、ニベ)、カレイ類、ハモ、タチウオ、エソ類、エイ類、タイ類(キダイマダイ)、エビ類、ホウボウ類、そのほかの底魚など多種類にわたっている。

 この漁業が黄海や東シナ海で開始されたのは1910年代(明治末期)からであるが、現在に至るまで種々の変遷を経てきた。操業開始当初は、イギリスから導入されてまもないオッターボード(拡網板)を使用して、1艘(そう)で曳網(えいもう)するトロール漁船が主体であった。しかし、大企業がほとんどを独占していたため、一般漁業者は日本古来の手繰網(てぐりあみ)を改良して2艘で曳網する機船底引網により進出し、技術的にも進歩してトロールをしのぐに至った。両漁法とも機動力のある漁獲効率の高い漁法であるため、ほかの沿岸漁業者との紛争なども生じたが、しだいに発展し、1940年(昭和15)にはトロール船58隻と底引網船678隻で、漁獲量は約20万トンにも達した。第二次世界大戦により一時壊滅状態となったが、戦後3、4年で戦前水準まで急激に回復し、中国や韓国との国際的な規制を受けながらも、漁獲量は着実に増加し続け、1961年には37万トンを記録した。しかし、順調であったこの漁業も、1960年代に入って、資源の減少、魚体の小形化が目だち、1961年を境に漁獲量は下降し始めた。

 その後、トロール船は新しく開拓された北洋南方の遠洋漁場にほとんど転出し、底引網船も自主減船するほか、網目制限や禁漁区を設定するなど資源維持に努めたが、漁獲量は減少し続け、1972年には22万トンにまで落ちた。1970年代後半には沿岸諸国の領海拡大や、200海里経済水域設定問題がおこる一方、国内的には人件費や燃油が高騰し、経営の悪化はますます深刻なものとなった。1980年以降は、さらに大幅な減船をするなど、種々の対応策が講じられたが、きわめて厳しい情勢となった。

 2000年代の以西底引網漁業の許可隻数は、2000年(平成12)で44隻、2001~2004年は18隻、2005~2007年は13隻となっている。漁獲高は2000年で7000トン、31億円であったが、2005年は6000トン、18億5000万円に低下している。また、日中・日韓の新漁業協定が締結され、東シナ海・黄海も200海里体制に入ったが、広域の入会漁場(相互漁場)が設置され、さらに、200海里経済水域への相互入漁もあって、以西底引網漁業は引き続き国際競合にさらされている。一方、200海里経済水域での資源管理も取り組まれている。再生力が低く、過剰漁獲による影響が表れやすい底魚の場合は、資源管理手法としての漁獲努力量規制(減船、休漁、漁具の大きさ規制など)、漁獲量規制、その他の規制(漁期、保護区の設定網目規制など)をどのように組み合わせて実施するのかも十分、検討されなければならない。

[余座和征・三浦汀介]

その後の動き

2018年(平成30)12月の漁業法改正(2020年12月施行)に伴い、2020年(令和2)12月以降、以西底引網漁業は大臣許可漁業となり、「漁業の許可及び取締り等に関する省令」(昭和38年農林省令第5号)により海域等の制限措置が定められることになった。なお、海域の変更はない。

[編集部 2022年8月18日]

『農林中央金庫水産部編・刊『平成8年~平成9年度主要漁業の動向と問題点』(1998)』『片岡千賀之著「以西底曳網漁業の戦後史Ⅱ」(長崎大学水産学部研究報告第91号pp.35~59・2010・長崎大学水産学部)』『水産年鑑編集委員会編『水産年鑑2011』(2011・水産社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「以西底引網漁業」の意味・わかりやすい解説

以西底引網漁業 (いせいそこびきあみぎょぎょう)

北緯25°以北,東経128°30′(北緯33°9′15″以北では東経128°)以西の黄海,東シナ海,および北緯10°以北,東経121°以西の南シナ海を操業区域とする総トン数15トン以上の船による底引網漁業で,指定漁業の一つ。2艘(そう)で一つの網を引く機船底引網と,オッターボードという網の口を開く装置をつけた網を1艘で引くトロールとがある。明治末期にオッタートロールがイギリスから導入されると,その効率のよさでたちまち盛んになったが,沿岸漁業者との間に激しい対立が生じた。そのため政府は内地沿岸を操業禁止区域としたが,さらに1912年にトロール漁場を東経130°以西と定めた。これが以西漁業の名の由来である。その後もトロール船は増え続けたが,資源の減少,漁獲過剰,魚価低落を招き,18年取締規則が改正され,トロール船の隻数は70隻に制限された。このころから,2艘の船で網を引くことによって網口を広げる2艘引きが徐々に盛んになり,トロールと競合するようになった。そのためタイ類など重要な資源の減少がまたひどくなり,32年に大臣許可漁業とされるにいたった。漁獲対象はその後,練製品原料とされるつぶし物と呼ばれるニベ・グチ類,エソ類へと転換し,漁獲量は再び増加した。近年は日中漁業協定日韓漁業協定によるさらに厳しい制限を受け,また過去の乱獲による資源の減少もあって,昔日の面影はないが,年間4万tを漁獲している重要な漁業の一つである。近年の主流は125~150トン型の船尾式底引船で,グチ・ニベ類,イカ類,カレイ類,ハモ,タチウオ,エソなどが主な漁獲物である。以前の重要種であったキダイなどのタイ類やコウライエビ(タイショウエビ)などは少ない。

 以西底引網漁業に対して,東経130°以東を操業区域とするので以東底引網漁業と呼ばれた機船底引網漁業は,1962年の漁業法改正により,沖合底引網漁業と名が改められた。やはり大臣許可漁業である。広く行われているのは1艘引きであるが,島根,山口,愛媛には2艘引きがある。漁獲物は水域によって違うが,北ではスケトウダラ,カレイ・ヒラメ類が多く,南ではカレイ・ヒラメ類のほかタイ類,エソ類,ハモなどもある。スケトウダラの漁獲がのびた75年前後には沖合底引網漁業の全国の漁獲量は140万~150万tに達したが,その後減少し,50万t程度となっている。
水産業
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百科事典マイペディア 「以西底引網漁業」の意味・わかりやすい解説

以西底引網漁業【いせいそこびきあみぎょぎょう】

北緯25°以北,東経128°30′(北緯33°9′15″以北では東経128°)以西の黄海,東シナ海,および北緯10°以北,東経121°以西の南シナ海を操業区域とする総トン数15トン以上の船による底引網漁業。大正年間には以西トロール漁業が盛んであった。これはオッターボード(開口板)という網の口を開く装置をもつ1隻のトロール船で操業する。これに対抗して2隻の船で網につけた引綱を1本ずつ引いて操業する以西機船底引網漁業が起こり,トロール漁業の取締りがきびしくなるにつれて発展した。特に第2次大戦後はトロール漁業を圧倒し,以西底引網漁業の主役となった。漁獲対象魚は,イカ類,グチ・ニベ類,カレイ類,ハモ,タチウオなど。近年はすり身原料となるグチ類から惣菜物として販売される鮮魚,とくにイカ類が主体となってきた。東経が限定されているのは,トロール漁業と同じく,それ以東では小規模な漁業を圧迫するという理由からである。→底引網漁業

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「以西底引網漁業」の意味・わかりやすい解説

以西底引網漁業
いせいそこびきあみぎょぎょう

東経 128゜30′以西の東シナ海,黄海を操業区域として,総トン数 15t以上,通常 100t前後の動力漁船により行う底引網漁業。大型化がはかられ 200トン級の船尾式トロール型の底引船も登場している。主としてキグチ,タチウオ,エソ類,ハモなどの底魚類を目的に操業している。従来,練製品の原料として多く使われてきたが,1970年頃からは惣菜物の生産が中心となっている。近年は底魚,資源水準の悪化,漁獲量の減少,魚価の停滞,慢性的労働不足などの多くの問題をかかえている反面,漁場開発調査,漁法改良といった振興策も検討されている。

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