漁業調整等の必要から行政庁の許可がなければ操業ができない許可漁業とは異なり、都道府県知事の免許により一定の水面において特定の漁業を排他的に営む権利を取得して行われる漁業のことで、漁業権漁業ともいわれる。日本の沿岸漁業・養殖業は基本的にこの漁業権制度に基づいて展開される。この淵源(えんげん)は浦方(漁村集落)におけるさまざまな態様の共同体的利用を内包する総有的・入会(いりあい)的性質を有する漁場利用形態が展開する近世期に求められ、明治期以降においてその市民法的整備ならびに制度や運用の再編が図られてきたが、第二次世界大戦後の制度改革時における漁業法制定(1949)により今日の漁業権制度の基本的体系化が図られるに至る。すなわち、沿岸域漁場の総合的高度利用と漁業生産力の発展を図る見地から、大多数の沿岸漁業者を構成員とする地区漁業協同組合(漁協)等を管理主体とする保有のあり方と結び付いて、適正に漁場を維持管理する形が整備されてきた。
[廣吉勝治・工藤貴史 2022年8月18日]
漁業権漁業は、漁業法の規定でもあるが、漁場行使方法の態様や発展段階を異にするさまざまな漁業の特質により、以下にみるように定置漁業権漁業(略して定置漁業、以下同じ)、区画漁業、共同漁業の三つに分類される。
(1)定置漁業 身網(みあみ)の設置場所の最深部が最高潮時において水深27メートル以上(沖縄県では15メートル以上)であるもの。共同漁業に属する小型定置網漁業と区別するため、大型定置網漁業と称する場合もある。ただし、北海道のサケ捕獲を目的とした定置漁業は身網設置の水深に関係なく当該定置漁業であり、瀬戸内海の枡(ます)網漁業ならびに青森県陸奥(むつ)湾の落し網漁業・枡網漁業については当該定置漁業から除いている(共同漁業に属するものとして扱われる)。
(2)区画漁業 一定の区域内で行われる水産動植物の養殖業のことで、その生産のために一定の場所を占有する区画の仕方により3種類に分類される。すなわち、第1種区画漁業はノリ養殖に代表されるひび建養殖業、幹綱や筏(いかだ)から籠(かご)等の道具を吊(つ)るし養殖するホタテ貝・カキ・ワカメ・コンブ・真珠等の養殖業、および給餌(きゅうじ)による魚類等の小割り生け簀(す)養殖業等が含まれる。施設や装置、漁具等を敷設する方法で、現実に多くの養殖業が行われている。第2種区画漁業は網仕切りや築堤により水面を比較的大きく区切って行われる養殖業である。第3種区画漁業は第1種、第2種以外の養殖で、地まき式の貝類養殖業がある。
(3)共同漁業 一定地区の漁業者が特定の地先水面を共同で利用するための漁業権漁業で、漁業の対象や方法により以下の5種類に分類される。第1種共同漁業は藻類、貝類または農林水産大臣の指定する定着性生物の採捕を対象とする漁業。第2種共同漁業は海面(海面に準ずる湖沼を含む)を移動しないように網漁具を敷設して行う漁業であり、いわゆる小型定置網、固定刺網(さしあみ)、および「魞(えり)」「簗(やな)」等の漁業が含まれる。第3種共同漁業は地引網漁業とこれと同じ性質の地こぎ網、無動力漁船による船引網、およびブリ等の飼付(かいつけ)等の漁業、または人工的に設置された魚礁を利用した築磯(つきいそ)漁業等が含まれる。第4種共同漁業は特定海面(瀬戸内海等)において営まれる寄魚(よりうお)漁業または鳥付(とりつき)こぎ釣漁業等、特殊であるが排他的に行うのでなければ成り立たない漁業である。第5種共同漁業は湖沼、河川、池など内水面または湖沼に準ずる海面において営まれる漁業である(ただし、第1種共同漁業に該当しないもの)。
なお、漁業権の内容として「入漁権」があるが、これはある組合等の団体に免許されている漁業権漁業を、他の組合の組合員が当該組合との契約(場合によっては海区漁業調整委員会の裁定)に基づき入漁・行使できる権利であり、その漁業権漁業の全部または一部を営むことができるものである。
[廣吉勝治・工藤貴史 2022年8月18日]
漁業権は知事の免許によって設定されるが、物権とみなされ土地に関する規定が準用される(漁業法77条)。しかし、漁業権は漁業・養殖業を営む権利という特殊な側面があり、さまざまな制約や条件が定められている。
第一に、漁業権には存続期間がある。免許の日から起算して共同漁業権および区画漁業権(ただし、真珠養殖業を内容とするものや農林水産省令で定めたものに限る)については10年、その他の漁業権については5年である。知事は、あらかじめ海区漁業調整委員会等関係者の意見を聴き、漁業権付与の前提となる区域、漁業種類、期間等、免許内容を盛り込んだ「海区漁場計画」を策定・公表して漁業者からの免許申請を受け、免許手続に入る。
第二に、漁業権の分割や変更は知事の免許が必要であり、移転・譲渡は相続または法人の合併や分割による場合を除き原則禁止である。また漁業権は貸付けの対象となることはできない。抵当権設定については知事の認可を要する。
第三に、知事は漁業調整やその他公益上必要があると認めるときは、海区漁業調整委員会の意見を聴き、漁業権に条件をつけることができる。このことは、漁業権者の水面使用の権利義務関係や物権的請求権の内容にも影響が及ぶこととなる。
[廣吉勝治・工藤貴史 2022年8月18日]
外部企業の参入促進や「水産業の成長産業化」を標榜(ひょうぼう)する政府・規制改革推進会議の働きかけで2018年(平成30)12月に改正(2020年12月施行)された漁業法は、多くの点において戦後制度改革のなかで制定をみた漁業法の根幹をも変更する内容となった。免許漁業における漁業権の権利主体にかかわる問題においても、基本的なルール改変を行った。
第一に、漁業権の付与について、定置漁業、および区画漁業もその多くを占める「特定区画漁業権」については、大多数の地元漁業者を組合員とする地区漁協等を最優先とするという従来の免許ルール(優先順位規定)を廃止した(あわせて特定区画漁業権も廃止)。これは、海区漁場計画の策定プロセスにおいて、政府・水産庁の「参入希望者をはじめ関係者の意見を幅広く聴取するなど透明化する」という立場から、定置漁業と区画漁業については「個別漁業権」として個別漁業者への付与を基本とし、関係地区の大多数の個別漁業者(組合員)が結集する団体(漁協)への漁業権は、改めて適当と判断した場合に「団体漁業権」として付与されるものとした。
第二に、優先順位規定の廃止にかわる免許設定の判断基準として「漁場を適切かつ有効に活用している漁業者」の利用を確保、優先するという規定と運用促進を指導することとなった(漁業法63条・73条、および令和2年6月30日付け2水管第499号水産庁長官通知「海面利用制度等に関するガイドライン」)。ちなみに、「適切かつ有効」の概念展開や漁場利用計画の実態については、今後漁業権切り替えの実施のなかで明らかにされよう。これまで長いあいだ地区漁協優先を基軸として「漁民的漁場利用」を推進してきた沿岸漁場管理の現場における状況を予断をもって論じることはできない。なお、共同漁業権については従来通り地区漁協に付与される。
[廣吉勝治・工藤貴史 2022年8月18日]
上記の3漁業権漁業は全国の沿岸域に敷設されているが、それらの敷設位置図が海上保安庁のWEB「海洋状況表示システム」(海しる)で公表され、日本地図上に落とし込まれている。「海しる」は、海洋関係機関が収集・保有している海洋情報を集約し、衛星情報や海上気象の情報などを地図上で重ね合わせて表示できる情報サービスである。「海しる」検索画面のレイヤー一覧(情報の一覧)より「+水産」→「+漁業権」を選択していくことで、「区画漁業権」「定置漁業権」「共同漁業権」の情報を閲覧することができる。キーワード検索で情報を表示することもできる。
[廣吉勝治・工藤貴史 2022年8月18日]
『〔WEB〕海上保安庁『海洋状況表示システム(海しる)』 https://www.msil.go.jp/msil/Htm/TopWindow.html(2022年7月閲覧)』
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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