湖沼、河川、池など、いわゆる内水面で行われる漁業。海面漁業に対する語。淡水漁業と区別して用いることもあるが、同義語として用いられる場合が多い。
内水面漁業は、公共の内水面において水産動植物を採捕する漁業と、一定区画の内水面において水産動植物を集約的に育成する養殖業とに分けられる。2010年(平成22)における海面養殖業は全体の21%を占めるにすぎないが、内水面では全体の49%ときわめて大きな割合を占めているのが特徴といえる。内水面生産量は2010年では7万9000トンで、そのうち漁獲量は3万9000トンで、霞ヶ浦(かすみがうら)、北(きた)浦、琵琶(びわ)湖、宍道(しんじ)湖などの湖沼、十勝(とかち)川、那珂(なか)川、利根(とね)川、信濃(しなの)川、揖斐(いび)川などの河川での漁獲が多い。これらのなかで霞ヶ浦、北浦および琵琶湖は指定湖沼として漁業法上では海面と同じ扱いを受けているが、宍道湖、小川原湖などの汽水湖における漁業は内水面漁業に含まれる。指定湖沼における漁業種類別経営体数は湖沼によって異なり、琵琶湖では刺網が38%を占め、霞ヶ浦、北浦では底引網(底曳網)類が85.3%を占めていた。河川においては釣り、延縄(はえなわ)がもっとも多く、ついで投網、刺網(さしあみ)などである。これらの漁具を用いてサケ・マス類、アユ、ワカサギ、ウナギ、コイ、フナ、シジミなどを漁獲している。
養殖業は1960年(昭和35)ごろから生産量が急増し、1986年までの数年間は約9万~10万トンに達していたが、2008年(平成20)では4万トンに減少している。ウナギ、コイ、フナ、アユ、ニジマスなどが養殖の対象魚として高い割合を占めている。しかし、農薬、都市廃水、工場廃水などの流入によって、湖沼や河川の水質が悪化し、魚類が減少するといったことも生じている。そのため、資源を保護する目的で禁漁区や禁漁期の設定、稚仔魚(ちしぎょ)の放流・移殖、生息環境の改善など、魚の保護・増殖を積極的に推進している。内水面漁業協同組合は第5種共同漁業権の免許を受けてその水面を管理し、漁業法に基づいてアユ、コイなど漁業権魚種について増殖義務を負っているが、その経費の一部を遊漁(ゆうぎょ)者からの遊漁料を徴収することによってまかなっている。2009年の統計によると、遊漁人口4500万人のうち700万人が内水面における遊漁者である。しかし、これらの遊漁者のなかには、よりスポーツ性の高い釣り方を好む者も多く、その対象魚として「特定外来生物」として法律で放流が禁止されている肉食性でしかも繁殖力の強いブラックバス、コクチバス、ブルーギルなどを無断で放流(密放流)する例が全国の湖沼でみられ、湖沼本来の生態系の破壊が懸念されている。そのため、これら外来魚の密放流を防止するための内水面外来魚密放流防止体制の整備・推進が図られている。
[吉原喜好]
海面漁業に対する語で,河川,湖沼,池,用水路などの内水面で営まれる漁業をさす。広義には内水面養殖業も含める。塩水湖,汽水湖なども含まれるので,厳密には淡水漁業と一致しないが,淡水生物を対象とする漁業と考えて大きなまちがいはない。おもな漁獲物はサケ・マス類,ワカサギ,アユ,コイ,フナ,ウナギ,ドジョウ,シジミなどで,養殖業も含めれば観賞用のキンギョ,ニシキゴイ,さらには淡水真珠なども生産されている。一般に内水面のほうが海面より漁場が狭小なので,漁具も海面漁業で用いるものの小型のものが多い。小型の引網類(地引網,船引網,帆引網など)や巻網類も使われるが,刺網,四つ手網などがよく使われる。多いのは一本釣り,はえなわで,筒,筌(うけ),もんどり,柴漬など雑漁具もさまざまなものが使われる。定置漁具としては琵琶湖,霞ヶ浦など大きい湖のえり(魞)・網えり類はやや大型だが,一般には張網類の小型のものが使われる。やな(簗)は河川に特有のものである。漁船も小さいものが多く,船外機をつけるぐらいで,無動力船が圧倒的に多い。生息環境の規模が小さいので,資源自体も小さく,漁獲あるいは環境変化(汚染,ダム建設など)の影響を受けやすい。環境を守ること,資源を守ることなど,海面以上の努力が必要とされる。そのため,漁期,漁具,漁法の制限が細かく決められていることが多い。また,産卵場の保護,稚魚の放流なども行われる。最近は海面漁業でも問題になっているが,同一漁場を職漁と遊漁とで共通に利用する度合は内水面漁業で格段に高い。漁業権管理者は入漁料をとることが認められているが,増殖義務を課されてもいる。日本での内水面生産量は漁業・養殖業合わせて年間20万t弱である。
世界的に内水面漁業の生産が盛んなのはアジアおよびアフリカの各国で,そのほかでは旧ソ連とブラジルが多い。
執筆者:清水 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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[水域別生産および漁獲可能量]
世界の漁業生産の大部分は海面からの漁獲である。中国のように内水面漁業の比重の大きな国もあるが,世界全体の内水面漁業生産は11%(1981)にすぎない。また,養殖生産の比重は,日本のように盛んな国でも数量で9%,金額で19%である。…
※「内水面漁業」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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