日本大百科全書(ニッポニカ) 「遠洋底引網漁業」の意味・わかりやすい解説
遠洋底引網漁業
えんようそこびきあみぎょぎょう
日本の近海および以西底引網漁業・沖合底引網漁業の操業区域(「以西底引網漁業」「沖合底引網漁業」の項参照)以外の海域で、総トン数15トン以上の動力漁船により底引網を使用して行う漁業。漁業における名称表記としては「遠洋底曳(そこびき)網漁業」とするのが正しいが、一般に「遠洋底引網漁業」または「遠洋トロール漁業」の表記が通行している。漁業法では操業区域により、これまで3業種(遠洋トロール、北転船、エビトロール)に区分されていたが、国内規制を緩和し、漁業者の企業努力により操業機会が確保できるようにするため、1998年(平成10)8月1日、3業種を統合し遠洋トロールとした。2010年(平成22)8月1日時点の操業隻数は8隻である。操業水域および操業状況について以下に示す。
[三浦汀介]
北太平洋水域
(1)ベーリング公海 1994年「中央ベーリング海におけるすけとうだら資源の保存及び管理に関する条約」が加盟6か国(日本、アメリカ、中国、韓国、ロシア、ポーランド)により作成(1995年発効)されたが、それ以前の1993年から、この漁業は一時停止(モラトリアム)となっている。
(2)ロシア水域 ロシア水域において、従来は日ソ地先沖合漁業協定に基づき操業を行ってきた。1990年よりロシア側との民間契約に基づく操業も行われ、しだいにそちらが中心となっていたが、この民間契約に基づく操業は、2003年にロシア国内法の改正により廃止された。それ以降、日ロ地先沖合漁業協定(日ソ地先沖合漁業協定の通称)に基づく漁獲枠に基づく操業のみを4隻が行っている。
(3)天皇海山水域 天皇海山水域においては5隻がキンメダイ、およびクサカリツボダイをおもな漁獲対象魚種として操業を行っている。また、現在、天皇海山水域を含めた北太平洋の生態系を保持し北太平洋公海の底魚等を対象とする漁業資源の長期的保存と持続的利用を確保することを目的とする新たな地域漁業管理機関の設立に向け、日本を含め、アメリカ、韓国およびロシア等の関係国と協議中である。なお、これらの国により作成された「北太平洋における公海の漁業資源の保存及び管理に関する条約」は発効に向けた準備が行われている。
[三浦汀介]
北太平洋水域以外の水域
外国漁船に対する余剰量の割当ての減少、各海域での資源状況の悪化と資源管理の強化等の理由から、好漁場であったアメリカの大西洋水域やアフリカ北西海海域からの撤退を余儀なくされたため、現在はニュージーランド水域、南極水域、および南西インド洋水域などにおいて操業を行っている。しかし、これらの水域も沿岸国による200海里漁業水域の規制強化、地域漁業管理機関の規制が年々厳しくなっている。
(1)ニュージーランド水域 ミナミダラ、ホキ、ヘイク、イカなどの重要な漁場となっており、1959年(昭和34)ごろから操業が行われている。1977年には約18万トンの漁獲をあげたが、1978年に200海里漁業水域が設定されて以降十分な割当量は確保できなかったことから、減船を実施した。その後も操業条件は厳しくなり、現在では形式用船方式により1隻が入漁している。
(2)南極水域 南極水域の主漁獲対象はナンキョクオキアミである。日本は「南極の海洋生物資源の保存に関する条約」(CCAMLR:Convention on the Conservation of Antarctic Marine Living Resources)の締約国となっており、本条約は1982年から発効している。漁獲対象種の資源保存のみならず、それに依存・関係する捕食者(ペンギン、アザラシなど)をも含めた南極の生態系全体の維持・管理を目的としている。2000年に条約水域48海区、400万トンの漁獲可能量が設定され、現在に至っている。現在は1隻のみ操業している。
(3)南西インド洋水域 2010年からキンメダイを主対象として1隻が操業している。
[三浦汀介]
『農林中央金庫水産部編・刊『平成8年~平成9年度主要漁業の動向と問題点』(1998)』▽『農林水産省大臣官房情報課編・刊『平成18年度 農林水産省年報』(2008)』▽『水産年鑑編集委員会編『水産年鑑2011』(2011・水産社)』