漁業法に基づき、沿岸の決められた水域で独占的に漁業を営むことができる権利。ブリなどの定置網漁のための「定置漁業権」、カキやノリ、マグロなどの養殖が可能な「特定区画漁業権」といった種類があり、都道府県知事の免許が必要になる。区分によって5年または10年ごとに更新される。
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都道府県知事の免許に基づいて,一定の漁場において一定の漁業を独占的・排他的に営む権利。本来公共の用に供せられる水面における漁業は何人がこれを行うのも自由であるのが原則であるが,その性質上他人の利用を排除しなければこれを営むことのできない漁業がある。漁業権は,行政庁がこのような漁業を営むことを免許することによって発生するものである。漁業権には,定置漁業権,区画漁業権および共同漁業権の3種類がある(漁業法6条)。漁業制度上漁業の種類を分類すれば,漁業権漁業のほかに許可漁業および自由漁業がある。自由漁業は,免許や許可を要しない漁業であって,水産資源の保護培養上,漁業の調整上とくに問題とならない一部の一本釣漁業,延縄(はえなわ)漁業などの漁業がこれに該当する。
漁業権漁業のうち,定置漁業とは,漁具を定置して営む漁業で,身網(みあみ)の設置される最深部が最高潮時に水深27m(沖縄県は15m)以上のもの(ただし若干の例外がある),および北海道においてサケを主たる漁獲物とするものをいう。最近の定置漁業権の数は,1993年現在,全国で2024件である。区画漁業には,第一~第三種の3種類があるが,いずれも養殖業である。第一種区画漁業とは,一定の区域内で石,瓦,竹,木などを敷設して営む養殖業で,ひび建養殖業,カキ養殖業,真珠養殖業等がある。第二種区画漁業とは,土,石,竹,木等によって囲まれた一定の区域内で営む養殖業で,海面においては築堤式・網仕切式の大規模魚類等養殖業,内水面においては溜池養殖業などがある。第三種区画漁業とは,一定の区域内で営む養殖業であって,第一種および第二種の区画漁業に該当しないものであり,そのほとんどは貝類の地まき式の養殖業である。漁業制度上,第一種区画漁業のうちの真珠養殖業および第二種区画漁業は,定置漁業と同様に経営者に直接に免許される。しかし,そのほかのひび建養殖業,そう類養殖業,真珠母貝養殖業,小割養殖業,カキ養殖業,地まき式貝類養殖業を内容とする区画漁業権は特定区画漁業権といわれ,漁業協同組合管理漁業権として,漁業協同組合に優先的に免許され,漁業権行使規則に基づき組合員が漁業権の行使を行うものである。区画漁業権の数は,1993年現在,海面は全部で1万0737件で,その内訳は第一種が1万0138件,第二種が254件,第三種が338件,第一・三種併合が7件であり,内水面は1002件である。共同漁業とは,一定の水面を共同に利用して営む漁業をいい,第一~第五種に分類されている。共同漁業は,地元の漁業協同組合またはその連合会にのみ免許され,管理するものであって,実態的には沿岸漁業者の大多数がこれによって生計をたてている。漁業協同組合は,漁業権行使規則を制定し,これに漁業の行使者の資格,操業区域,期間,漁業の方法等を規定して漁業の管理にあたっている。第一種共同漁業とは,そう類,貝類のほか,農林水産大臣が指定する定着性の水産動物(イセエビ,タコ,ウニ等)の採捕を目的とする漁業である。第二種共同漁業とは,網漁具(えり・やな類を含む)を移動しないように敷設して営む漁業であって,定置漁業および第五種共同漁業以外の漁業である。おもなものは,小型定置漁業および固定式刺網(さしあみ)漁業であるが,漁場によっては漁業権によらないで知事許可漁業として制限している県もある。第三種共同漁業とは,地びき網漁業,地こぎ網漁業,無動力船びき網漁業,飼付漁業および(第一種以外の)築磯(つきいそ)漁業をいう(第五種に属するものを除く)。第四種共同漁業とは,寄魚(よりうお)漁業と鳥付こぎ釣漁業をいい(第五種に属するものを除く),わずかに瀬戸内海にみられるだけである。第五種共同漁業とは,内水面(琵琶湖,霞ヶ浦,浜名湖等を除く)または湖沼に準ずる海面(久美浜湾,与謝海)で営む共同漁業である(第一種に属するものを除く)。内水面の第五種共同漁業権者には,増殖をする義務が課されている。共同漁業権は,1993年現在,全国で海面は5200件(第一種1177件,第二種1299件,第三種1419件,第四種124件,各種の併合1181件),内水面は959件である。
知事は漁場計画を定めて公示し(漁業法11条),申請者の中で,適格性のある者に対して,法定の優先順位に従って免許を与える(14~19条)。漁業権の存続期間は共同漁業権および真珠養殖業または海面における魚類等養殖業を内容とする区画漁業は10年,その他は5年である(21条)。単なる更新は認められず,そのつど公示,免許を要する。漁業権は,物権とみなされ,土地に関する規定が準用されるが,私権としての性質は著しく制限されている。すなわち,貸付けはいっさい禁止され,譲渡や担保権の設定等も厳しく制限されている(23条等)。
→漁業制度 →漁業法 →漁場制度 →漁業調整委員会
執筆者:金田 禎之
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漁業法に基づき、特定の水面において特定の水産動植物の採捕または養殖を営業として排他独占的に行う権利であり、都道府県知事の免許によって設定され、物権として土地に関する規定が準用される。漁業権に基づいて行われる漁業は免許漁業(漁業権漁業)とよばれる。
[廣吉勝治・工藤貴史 2022年8月18日]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…そこでは,荘園制的な浦の上級領有権が解消し,その下に潜在していた共同体的水面領有が村中総入会の形をとって純粋に現れ,神人・供御人などの特権的漁民身分も特定の場合を除いて消滅した。領国権力に対して水手役を負担するもののみが漁民身分として公認され,水手役を負担する浦浜のみが,浦方・浜方として村方・地方から区別されて漁業権を認定される近世的漁業制度が成立するのである。そしてこれ以降,近世漁業は,浦浜の世界を基盤としながらも,浦方と地方の漁業権相論,沖合漁業への進出,海産物の商品的加工・肥料化など全領国経済にかかわる問題として展開していくこととなる。…
…水産資源の保護や漁業調整の目的から,自由に漁業を営むことを一般的に禁止したうえで,行政庁が出願を審査して特定の者に禁止を解除するものである。本来の自由の回復なので,他の漁業者を排除して独占的に営む権利である漁業権とはその性格が異なる。現在,日本の漁獲高の多くは,この許可漁業によって占められている。…
… 日本の漁業制度は明治時代に組合準則(1886),旧漁業法(1901)を経て成立した,いわゆる明治漁業法(1910)によって確立した。その体系は海藻貝類の採取業や定置・地引・船引網などの沿岸漁業および養殖業などは漁業権により営む漁業として,地方長官の免許(専用漁業権は大臣免許)を必要とした。あぐり網・打瀬網・底引網漁業等の沖合漁業の多くは地方長官の許可,トロール・母船式漁業などの遠洋漁業は大臣の許可を必要とした。…
※「漁業権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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