譬喩歌(読み)ヒユカ

デジタル大辞泉 「譬喩歌」の意味・読み・例文・類語

ひゆ‐か【×譬喩歌】

万葉集の歌の分類の一。表現方法に基づく分類で、心情を表に出さず、隠喩いんゆ的に詠んだ歌。多くは恋愛感情を詠む。たとえ歌。

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精選版 日本国語大辞典 「譬喩歌」の意味・読み・例文・類語

ひゆ‐か【譬喩歌】

  1. 〘 名詞 〙 万葉集の歌の部類一つ正述心緒歌寄物陳思歌と共に表現方法を基準とした分類で、心情を表に表わさず、隠喩法的に詠んだ歌をいう。大部分、恋愛感情を詠む。万葉集中、総計一六三首あるが、一首全体が完全な隠喩になっているものは約一〇〇首。

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改訂新版 世界大百科事典 「譬喩歌」の意味・わかりやすい解説

譬喩歌 (ひゆか)

《万葉集》中の相聞(そうもん)の歌を表現様式上から3分類した名称の一つ。正述心緒歌(ただにおもいをのぶるうた)(心に思うことを直接表現する),寄物陳思歌(ものによせておもいをのぶるうた)(物に託して思いを表現する)の2分類と並び,物だけを表面的に歌って思いを表現する,いわゆる隠喩(いんゆ)の歌をいう。しかし寄物陳思歌との境界が不明瞭な場合もある。〈ぬばたまのその夜の梅をた忘れて折らず来にけり思ひしものを〉(巻三)は女性を梅にたとえる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「譬喩歌」の意味・わかりやすい解説

譬喩歌
ひゆか

『万葉集』の歌の分類の一つ。『万葉集』では「正述心緒(ただにおもひをのぶる)」の歌、「寄物陳思(ものによせておもひをのぶる)」の歌とともに、物のみを表に出して心に思うことをたとえる「譬喩」の歌をたてており、表現方法を基とした歌の3分類の一つである。なお、『万葉集』では、歌を詠んだ事情や動機を基に、雑歌(ぞうか)、相聞(そうもん)、挽歌(ばんか)の3分類もたてているが、これとは異なった分類基準による分け方である。譬喩歌では、心の思いは、歌の表に出したものに隠されて直接には表現されず、また、恋歌に限られている。「託馬野(つくまの)に生ふる紫草衣(むらさききぬ)に染(し)めいまだ着ずして色に出でにけり」(万葉集)。平安時代以後この分類名がみられないのは、和歌において譬喩的表現が一般化したためであろう。

[新井栄蔵]

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