恋の歌。相聞という語はもともと《文選(もんぜん)》をはじめ内外の諸文献にも見えることばで,消息を通じるなどの意を表すが,《万葉集》においては,漢詩における〈贈答〉にかわり,雑歌(ぞうか),挽歌(ばんか)と並ぶ三大部立て名の一つとして用いられ,親しい人と情を通じあう歌を収める。親子・兄弟間などの場合もあるが,男女間の愛情に関するものが中心を占める。原義からすればすべて贈答歌であるべきだが,実際には独詠歌や伝承歌なども多く含まれる。相聞歌の源流は歌垣(うたがき)の集団歌謡にまでさかのぼるが,万葉時代には正述心緒,寄物陳思,譬喩など種々の表現様式も分化し抒情詩としての完成を見せている。私的な内容を盛るだけに短歌形式の作が多いが,柿本人麻呂には〈石見相聞歌〉と称される長歌体の名作もある。《古今集》以後の勅撰集等では,部立ての名称としても〈相聞〉にかわって〈恋〉の名称が用いられるようになる。
執筆者:身﨑 壽
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「雑歌(ぞうか)」「挽歌(ばんか)」と並ぶ『万葉集』の三大部立(ぶだて)の一つ。「相聞」の語は中国の文献に多くみられる通用語で、そのもともとの意義は、互いに思いを伝達することであった。『万葉集』では「相聞往来歌」(巻11、12)とも称し、日常的な人間関係のなかで交わされた私情の歌々を概括するものであった。男女の間で交わされた恋愛歌を中心とするが、すべてが恋歌ではなく、大伯皇女(おおくのひめみこ)が弟大津皇子について歌った「わがせこを大和(やまと)へ遣(や)るとさ夜更(よふ)けて暁露(あかときつゆ)にわが立ちぬれし」(巻2・105)のように、親子・兄弟などの間で交わされたものも「相聞」に収められている。男女間を主とする私情伝達の歌で、広義の恋歌ということができる。『万葉集』は、巻2、4、8、9、10、11、12、13、14の諸巻に「相聞」の部立をもち、収める歌数は1750首に上る。『万葉集』の全歌数の3分の1を超える。これらは表現の仕方によって、正述心緒(せいじゅつしんしょ)、寄物陳思(きぶつちんし)、譬喩(ひゆ)などと分類されている。こうした私情の歌こそ歌を支える広い基盤であり、そのなかで叙情詩としての歌が育てられた。
[神野志隆光]
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雑歌(ぞうか)・挽歌(ばんか)とともに「万葉集」の3大部立の一つ。巻2・4・8~14の各巻にたてられている。漢籍の書簡類に多用される語で,元来は相手のようすを尋ねる,消息を通じ合うの意。転じて,私的な心のうちをのべる意となり,「万葉集」ではとくに男女間の私情を詠んだ恋の歌の意に用いるが,恋歌のほかに,親子・兄弟・姉妹・知友などの間の私情をのべ伝える歌も混在する。「古今集」以下の勅撰和歌集の恋歌にほぼ相当するといえるが,巻8・10では相聞の上位概念として四季をおいて,春相聞・夏相聞・秋相聞・冬相聞に分類している。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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…《万葉集》中の相聞(そうもん)の歌を表現様式上から3分類した名称の一つ。正述心緒歌(ただにおもいをのぶるうた)(心に思うことを直接表現する),寄物陳思歌(ものによせておもいをのぶるうた)(物に託して思いを表現する)の2分類と並び,物だけを表面的に歌って思いを表現する,いわゆる隠喩(いんゆ)の歌をいう。…
※「相聞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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