歌舞伎十八番の一つ。荒事師と悪人方が巨象を引き合うという場面を眼目とし,〈草摺引〉〈卒塔婆引〉〈錣引(しころびき)〉などと同じく,〈引合い事〉などと称されるものの一つ。1701年(元禄14)正月江戸中村座の《傾城王昭君(けいせいおうしようくん)》で初世市川団十郎と初世山中平九郎とにより初演との説が有力だが疑問。ほかにその前年3月江戸山村座の《薄雪今中将姫(うすゆきいまちゆうじようひめ)》,09年(宝永6)7月山村座の《傾城雲雀山(けいせいひばりやま)》などに演ぜられたとの説は誤りであり,33年(享保18)11月上演説も根拠が薄弱である。〈象引〉の場面を想像させるものは,アメリカのネルソン・アトキンス・オブ・アート所蔵の初世鳥居清倍(きよます)画の大々判丹絵およびこれを模写した鳥居清峰(2世清満)画の錦絵である。大正以後,2世市川段四郎,2世市川左団次,5世市川三升(10世団十郎),2世河原崎長十郎,2世尾上松緑が,《象引》という題名でそれぞれ新作上演している。
執筆者:池上 文男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
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