貧困ビジネス(読み)ひんこんびじねす

知恵蔵の解説

貧困ビジネス

ホームレスや派遣・請負労働者など社会的弱者を顧客として稼ぐビジネスのことで、NPO法人(特定非営利活動法人)もやいの湯浅誠事務局長が提唱した言葉。弱者の味方を装いながら、実は彼らを食い物にするもので、代表的な貧困ビジネスにネットカフェ、住み込み派遣、ゼロゼロ物件、無料低額宿泊所、消費者金融、ヤミ金融などがある。ゼロゼロ物件は「敷金、礼金、仲介手数料ゼロ」をうたい文句に、まとまった引っ越し資金を用意できない貧困層を引き寄せるが、家賃の支払いが1日でも遅れれば鍵を変えられて締め出される。ゼロゼロ物件と提携するのが、保証人の代わりに家賃支払いを保証する保証会社で、乱暴な追い出しを担う。家を失った人が泊まるネットカフェは、実質的には無許可の簡易宿泊施設で、ゆっくり休めない上料金は割高だ。かといって住み込み派遣の仕事に就くと、家賃などと称して近隣相場より割高な額を給与から天引きされることが多く、貯金ができないため、苦しい境遇から抜け出すことは難しい。貧困層に高金利でカネを貸すのが消費者金融やヤミ金融だ。前者は合法だが、自己破産の入り口になることも少なくない。無料低額宿泊所は、社会福祉法で定められた生活困窮者のための宿泊施設だが、住環境や食事が劣悪な上、生活保護費のほとんどを天引きするという、NPOが運営しながらも営利事業としか思えないケースもある。「偽りのセーフティネット」ともいうべきこうした違法ないし脱法ビジネスがはやる背景には、毎日働いても安心して暮らせない雇用の劣化と、一度つまずくと底まで落ちてしまうセーフティネットの弱さがある。

(北健一 ジャーナリスト / 2009年)

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朝日新聞掲載「キーワード」の解説

貧困ビジネス

社会的弱者や生活困窮者を利用して稼ぐビジネスの総称で、法政大学教授の湯浅誠氏が提唱した。生活保護受給者を施設に集住させ、多額の費用を徴収する事案が2000年代から相次いで発覚。11年以降は大阪府や埼玉県で規制条例が施行された。社会福祉法に基づき、都道府県知事らへの届け出が必要な無料低額宿泊所(無低)が舞台になるケースが目立つが、共同住宅の形態をとる無届けの施設も増えている。

(2018-02-26 朝日新聞 夕刊 1社会)

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デジタル大辞泉の解説

ひんこん‐ビジネス【貧困ビジネス】

経済的に困窮した人の弱みに付け込んで利益をあげる悪質な事業行為。一部の家賃保証会社による違法な家賃の取り立て、囲い屋による生活保護費の詐取など。貧困ビジネスを行う業者は、社会的企業を標榜しながら、実際には生活に困窮した状態から抜け出せないようにして不当に利潤を得ている場合も多い。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

貧困ビジネス
ひんこんびじねす

生活保護受給者やホームレスをはじめとする貧困層を標的として、さまざまな手口で金を稼ぐこと。1990年代以降に景気の後退がみられ、生活保護受給世帯が増加の一途をたどり始めたころから、社会問題として浮上した。特定非営利活動法人「もやい」の事務局長、湯浅誠(1969― )が提唱したことばである。月刊誌『世界』(2008年10月号、岩波書店)に掲載された「貧困ビジネスとはなにか」で、湯浅は「貧困層をターゲットにしていて、かつ貧困からの脱却に資することなく、貧困を固定化するビジネス」と定義している。貧困ビジネスには、無料低額宿泊所、住み込み派遣、消費者金融、闇金融、ゼロゼロ物件(「敷金ゼロ、礼金ゼロ」の賃貸住宅)などにかかわるさまざまな違法、あるいは脱法行為があり、社会的弱者のセーフティネットを装った団体や不動産業者、暴力団関係者などが全国で摘発されている。たとえば、社会福祉法で定められた生活困窮者のための宿泊施設である無料低額宿泊所関連では、路上生活者などに生活保護費を受給させる目的で施設に囲い入れ、狭小な生活空間とわずかな食事しか提供せず、受給した生活保護費から、家賃や食費などの名目で必要以上の金額を徴収するという手口が使われている。2014年(平成26)10月、さいたま市の無料低額宿泊所の運営者が、所得税法違反容疑で逮捕された事件では、運営者が入居者を役所に連れて行き、支給された約12万円の生活保護費全額を徴収し、入居者には、毎日数百円の小遣いなど月2万円程度を戻していただけであった。同年7月には、名古屋市の建設業者による同様の事件も発覚している。
 厚生労働省は2003年に無料低額宿泊所のガイドラインを策定したが、運営者の管理などにかかわる料金については具体的な規定を設けていない。そのため、大阪府は2010年に全国で初めて、生活保護受給者から高額な家賃やサービス料などを徴収する「囲い屋」などの貧困ビジネスを規制する条例を定めた。その後、条例で規制する動きが各地に広がっている。
 2015年7月からは、生活保護費のうちの住宅扶助の要件として、地域と世帯人数ごとに定めた基準額に床面積を加える見直しが行われ、貧困ビジネスに多い狭小な住環境では十分な住宅扶助を受けられなくなった。[編集部]

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