住宅や事務所、店舗など、建築物の用役に対して経常的に支払われる賃貸料。以下、住宅の家賃に限定して述べる。住宅の家賃は、その形成原理において大きく民間住宅の家賃と公共住宅の家賃に分けることができ、さらに民間住宅については資金の出所に関連して、自由家賃と公的規則家賃の二つのタイプに分かれる。
[巽 和夫]
個人や民間法人が民間資金を用いて経営する一般の民間住宅の家賃は、基本的には市場における賃貸住宅の需要と供給との関係で決まるといってよいが、住宅が長期の耐用財であることや、経済的に特殊な性格をもつ土地の住宅経営に占める比重が大きいことなどから、民間住宅家賃の格差はきわめて著しい。第二次世界大戦下の物価騰貴抑制策の一環として、家賃を低額に抑制するために1939年(昭和14)地代家賃統制令が施行された。戦後も住宅・宅地事情は劣悪であったので、戦前からの貸家をおもな対象として引き続いて適用がなされた。この統制令は1986年(昭和61)末で失効した。
一方、賃貸住宅の経営を合理化するために、2000年(平成12)3月に定期借家契約制度が導入された。従来の普通借家契約では、家主側に正当事由がない限りは契約を更新できるが、定期借家では期間が満了すれば更新しない。
民間住宅においても、公的資金を利用したり利子補給を受ける場合には、家賃に公的な規制がかかる。たとえば、特定優良賃貸住宅制度は、民間の土地所有者が優良な賃貸住宅を公的助成を利用して建設・供給・管理する仕組みであり、家賃に一定の制約が課せられている。
[巽 和夫]
低所得者を対象とする公営住宅と、主として中間所得者を対象とする公団住宅(2004年に都市再生機構が発足してからの名称はUR住宅)等に分かれる。公営住宅では、建設費のうち国からの補助額を差し引いたものの償却額に、地代相当額、修繕費、管理事務費、および損害保険料を加えたものの月割額を限度として地方自治体が決める。地方自治体は政策的な配慮からの家賃減額や傾斜家賃制を実施している。このように公営住宅の家賃は、建設費と経常費とからなる原価を基礎として算出されることから「原価(主義)家賃」と称する。
公営住宅は収入層に応じて第1種と第2種の2タイプに区分されていたが、1996年(平成8)に入居者層の適正化を図るため、区分をなくした。また福祉目的からいえば、家賃は住宅原価に対応させるよりも居住者の家賃負担能力に応じて決めるほうがよいという考え方から、住宅の便益に応じて決める「応益家賃」から居住者の支払い能力に応じて決める「応能家賃」への切り替えが行われた。
公団住宅(UR住宅)は、財政投融資金を原資とした原価家賃制をとっていたため、家賃は公営住宅よりはかなり高い水準にあり、中間所得層の需要に対応していた。しかし社会の住宅需給状況の実態から公団住宅(UR住宅)の家賃を民間市場の並びにすべきだとの議論が行われ、現在はUR住宅が立地する近傍に存在する同種の民間住宅家賃に同等とすることとなっている。一方、管理開始後、長年月を経た老朽化、陳腐化した住宅は低家賃に据え置かれているものも少なくなく、こうしたUR住宅は居住者の高齢・低所得化と相まって「第二公営住宅」化の様相を呈している。
[巽 和夫]
『森本信明著『都市居住と賃貸住宅』(1994・学芸出版社)』
居住用建物の使用収益に対する経済的な対価である。月々前払いのかたちで支払われている賃料が一般的には家賃とよばれている。しかし厳密には敷金の利子や権利金などの一時金も含めて〈実質家賃〉としてとらえるのが正しい。この種の一時金は,その呼称や額,さらに返還割合などに大きな地域差がみられる。日本の借家市場においては民間の家賃が支配的な影響力をもっている。また家賃の額は立地の悪いものほど,古いものほど,また長く住んでいる居住者のいるものほど安いという特徴が見られる。
この民間家賃とともに,公共賃貸住宅(公団,公営,公社)の家賃,ならびに公的な制約をうけた家賃が併存している。公営住宅はその建設費に対して国と地方自治体による直接的補助がなされている。そのため比較的低い賃料の設定が可能であり,入居対象者には所得の上限が設けられている。住宅・都市整備公団の賃貸住宅建設資金は財政投融資からおもに調達しており,その家賃は原則的には借入金返済額と諸経費との積上げ額によっている(〈原価家賃〉と称されている)。近年の地価や建設費の上昇は家賃の原価を引き上げている。傾斜家賃は当初家賃を低く抑え,その後経年的に家賃を引き上げていくもので,初期の入居対象の拡大をはかるために実施された。
公的な規制をうけている家賃の一つに,地代家賃統制令(1946公布)の対象となっている借家の家賃がある。1950年7月10日以前に建設された,延べ面積99m2以下の借家が対象であり,家賃水準はきわめて低い。この種の借家は除却や買取りを通じて徐々に少なくなっている。ただし非戦災地域を多く残す都市においては,周辺の家賃の抑制力となっているケースもある。これとは別に公的機関の援助によって建設された民間借家が近年増加している。それらは限度家賃が設定され,それ以上の家賃をとることが制限されており,多くの場合この限度家賃をかなり下回った水準で経営に参入している。
企業経営的に家賃の構成要素を考えると,それは借入金返済額,自己資金の償却費ならびに利子,税金や維持管理費,地代相当分などに分けられる。日本の場合,民間借家経営の大半は零細な土地所有者である。そこにおいては地代相当分や将来の修繕費を考慮しないで経営に参入する場合が多く,経営的にみた家賃水準の低下を引き起こしている。
一方で居住者から家賃をみた場合,満足しうる居住水準をもつ借家の家賃は高額である。応能家賃は経営上の家賃と,適正な家賃支払額との差額を,公共的に補助しようとするものである。諸外国ではすでに実施されているところもある。日本においては,その導入にあたって,経営家賃の決定方法,適正な家賃負担,所得の補足方法など多くの検討課題がある。
→借家
執筆者:森本 信明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…91年の借地借家法はこうした状況をとり入れ,財産上の給付の申出を正当事由判断の一つとした(28条)。
[家賃]
家賃は,両当事者にとっての大きな関心事であるが,法律上は当事者の合意で定められるべきものとされている。戦時中から戦後にかけて,地代とともに家賃統制が行われたことがあり,わずかながら統制令の適用がなされてきたが(地代家賃統制令),1986年末で廃止・失効した。…
…市場で取引される商品の生産のために支出される費用。原材料・燃料動力費,人件費,利子・地代・家賃,特許料などの生産に直接使用される商品・サービスへの支出と,商品の販売・管理,本社業務など生産活動を間接的に補助・促進する支出とがある。さらに,生産設備,非居住用建物,構築物,輸送運搬機器などの前払いした固定資本財を生産に使用することに対する費用相当分の回収(あるいは前払いした費用の当期割当分)として,減価償却費と呼ばれる費用も生産費に含められる。…
…また負担の点からみれば,家持が担う屋敷地年貢(地子)や公権力や領主への役負担は免除され,また,共同体内の諸負担についても免除されたり,家持より軽減されたりしている。しかし,借家・店借が家持や地主に支払うところの店賃(家賃,宿賃)は,とくに零細な借家・店借などにとっては過重な負担となった。一方,家持・地主などは,こうした店賃収入を当該家屋敷の地子や役負担,共同体諸経費に充当するのを常とした。…
…当事者の一方が相手方に,ある物の使用・収益をさせ,相手方がこれに対して賃料(地代,家賃,借賃)を払うことを約する契約をいう。他人の物を,返還を予定して利用する有償・諾成契約として民法に規定されている(民法601条以下。…
※「家賃」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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