貴州(省)(読み)きしゅう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「貴州(省)」の意味・わかりやすい解説

貴州(省)
きしゅう / コイチョウ

中国西南部の省。西は雲南(うんなん/ユンナン)省、北は四川(しせん/スーチョワン)省と重慶(じゅうけい/チョンチン)市、東は湖南(こなん/フーナン)省、南は広西(こうせい/カンシー)チワン族自治区と接する。面積約17万4000平方キロメートル、人口3676万6337(2000)。2地区、3自治州、4地級市、9県級市、56県、11自治県、2特区がある(2001)。古くはミャオ族の活動地域で、中国王朝の本格的支配は15世紀初めからであり、今日も漢族以外にミャオ族、プイ族、トン族その他の少数民族が多い。略称は黔(けん)または貴。省都は貴陽(きよう/コイヤン)。雲貴(うんき/ユンコイ)高原東部、西に高く東に低い貴州高原上に位置するが、揚子江(ようすこう/ヤンツーチヤン)と珠江(しゅこう/チューチヤン)の分水嶺(ぶんすいれい)である苗嶺(びょうれい)山脈や北部の大婁(だいろう)山脈が横たわり、揚子江支流の烏江(うこう/ウーチヤン)などや珠江水系の南盤江、北盤江による深い峡谷が交錯し、「地に三里の平らなし」というほど、広い平地は少ない。気候は1月の平均が4~9℃、7月は20~28℃と暖冬涼夏、年降水量も900~1500ミリメートルと比較的多い。なお、秋から冬にかけては寒暖両気団の停滞で曇天や雨天が多く、貴陽は「天に三日の晴れなし」といわれる。

 農産物では、穀物生産の約70%を占め、全省に広くみられる水稲のほかに、北部や西部トウモロコシ、南東部の小麦、中部の菜種、貴陽東部の全国的に有名なタバコがあるが、新中国成立後、烏江水系に建設された水利施設がこれらの農業を支えている。また、豊かな木材蓄積量をもつ森林では、スギや全国一の檜皮(ひわだ)、漆を産する。地下資源は、北東部の銅仁(どうじん/トンレン)にある全国最大の水銀をはじめ、中部の燐(りん)鉱石、西部の鉄鉱石、貴陽周辺や西部の石炭など種類も多い。新中国成立後発展した工業では、貴陽、遵義(じゅんぎ/ツンイー)の鉄鋼、機械、化学、紡織のほか、凱里(がいり/カイリー)の製紙、威寧(いねい)の製糖、貴定のたばこ、有名な茅台酒(マオタイチウ)などがあり、伝統工芸品の漆器、月琴もみられる。なお、烏江では出力63万キロワットの烏江渡発電所など電力開発が進んでいる。解放前は貧弱であった鉄道も解放後の建設で総延長は約1100キロメートルとなり、約3万余キロメートルの自動車道路、貴陽を中心とする航空路など交通の発展も著しい。主要都市としては、省都貴陽、北部の中心で1935年長征途中の中国共産党の重要会議が開かれた遵義、西部の安順(あんじゅん/アンシュン)と石炭都市六盤水(りくばんすい/リウパンショイ)、南部の黔南(けんなん)プイ族ミャオ族自治州の都勻(といん/トゥーユン)、南東部の黔東南ミャオ族トン族自治州の凱里がある。省内には貴陽の花渓公園、南西部の黄果樹瀑布(こうかじゅばくふ)などの景勝地も多く、南部の石灰岩地帯の鍾乳洞(しょうにゅうどう)の観光開発も期待されている。なお、北東部の武陵(ぶりょう)山脈には金糸猿など珍しい動植物が多い。

[小野菊雄]

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