日本大百科全書(ニッポニカ) 「赤ひげ」の意味・わかりやすい解説
赤ひげ
あかひげ
日本映画。1965年(昭和40)作品。黒澤明(くろさわあきら)監督。1960年代前半に黒澤監督は、『用心棒』(1961)、『椿三十郎(つばきさんじゅうろう)』(1962)など、エンターテインメント作品を連打してヒットさせたが、その最後を飾る本作は黒澤映画の集大成ともいえよう。江戸末期、小石川にあった養生所(救済病院)の所長、新出去定(にいできょじょう)(三船敏郎(みふねとしろう))が、貧しい人々の病気と社会の無知とを相手に奮闘するさまを描き、1964年のベストヒットを記録し、キネマ旬報ベストテン第1位となった。去定と長崎帰りの若い医師・保本登(やすもとのぼる)(加山雄三(かやまゆうぞう)、1937― )の生き方や考え方の対比を軸に、グランド・ホテル形式(ある場所を舞台に多くの人物のドラマを交錯させる手法)で養生所の患者たちを描き出してストーリーを重層化し、凝ったセットをはじめ、音楽や映像のテンポにも重量感を出した。医は仁術というメッセージとともにヒューマニズムあふれる作品だが、教訓的なニュアンスも濃い。高度経済成長のバンドワゴン(お囃子(はやし)連中)的なテレビ番組に対抗する意図が濃厚だが、家父長的な権威主義など、やや古い価値観も顔をのぞかせる。1966年の中央教育審議会答申「期待される人間像」の例として推奨される一方、保守回帰と反発されて評価が割れた。
[千葉伸夫]