1961年製作の日本映画。黒沢明監督,東宝/黒沢プロダクション作品。汚職を社会悪としてとり上げた《悪い奴ほどよく眠る》(1960)につづく黒沢プロダクション(1959設立)の第2回作品で,脚本は菊島隆三と黒沢の合作。三船敏郎演ずる浪人がある小さな宿場へやってきて,なわばり争いをしている二つの暴力組織を手玉にとって闘わせ,結果的に両方を退治して飄然(ひようぜん)と去っていくという筋書のこの映画は,黒沢みずからが語るとおり,ドラマとして分析すれば穴だらけで,徹底的に映画的な楽しさだけを追求した,〈ある意味では喜劇〉であるといえる。そして,《羅生門》(1950)の撮影を担当した,宮川一夫(1908-99)の黒沢のイメージを的確に映像化した望遠レンズの駆使などによる優れたカメラワークや,佐藤勝の斬新な音楽などによって,類型を脱した魅力ある時代劇映画となり,空前の大ヒットを記録した。
日本では黒沢の〈商業主義的娯楽映画〉という評価が一般的であったが,日本の時代劇映画がそのエキゾティシズムで〈人気〉を得ていたアメリカで公開されると,《タイム》誌は〈日本の黙示録〉という見出しをかかげて,黒沢が描いた19世紀日本の小さな宿場は現代文明を縮写した小宇宙であると論評し,また《ショー》誌は黒沢が初めてアメリカ全土の市場に売れる映画をつくったと評した。また,イタリアでは《用心棒》を模してセルジオ・レオーネ監督が《荒野の用心棒》(1964)をつくり,いわゆる〈マカロニ・ウェスタン〉流行のきっかけとなった。
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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